杭州寒蘭なまえものがたり

     8、詩人の魂


 三国時代から隋が天下を統一するまでの300年余りの間、江南では健康(今の南京)を首都として、次々と革命が繰り返され、孫権(そんけん)の呉から数えて六つの王朝が交替しました。
いわゆる六朝時代
(りくちょうじだい)です。
その六朝の宋の時代、陶淵明より50年位後の人で、鮑照(ほうしょう)という詩人がいました。
唐代の作家に大きな影響を与えた人です。


 鮑照の「白頭吟
(はくとうぎん)に代(か)う」という詩の中に、


    直きは 朱絲
(しゅし)の縄の如く
    清きは 玉壷の冰
(こおり)の如し
      
(清潔なことは白玉の壷に入った氷塊のよう)


という一節があります。


 ずっと後に唐の詩人 王昌齢
(おうしょうれい)は、江寧(今の南京市)の丞として左遷されていた時、洛陽に旅立つ友人の辛漸(しんぜん)を、鎮江の芙蓉楼で見送りました。
その時に前の鮑照の「白頭吟に代う」を踏まえた詩を詠んでいます。


        「芙蓉楼にて辛漸を送る」       王昌齢
    寒雨 江に連なって 夜 呉に入る
    平明 客を送れば 楚山孤なり
    洛陽の親友 如(も)し相問わば
    一片の冰心(ひょうしん) 玉壷(ぎょくこ)に在りと


    洛陽の親しい人々がもし私のことを尋ねてくれたなら、
     どうかこう答えて欲しい。
     ひとひらの透明な氷が白玉の壷の中にあるような、
     澄み切った心で私は生きていると。



 
当店25周年記念の花未確認株から選別されたものに、「白玉壷」(はくぎょくこ)という白っぽい青花があります。
舌は決して大きくはないのですが、ほんの一点こぼれる位で、巻いてしまうと無点に見えますし、捧心は最後まで開きません。
スマートで清潔感があり、いい雰囲気をもった花として人気があります。
命名したのは所有者の新井さん。


 中国で美しいものの典型と考えられている白玉。
その壷の中に入っている水晶細工のような透明な氷。
この詩のイメージからつけられた名前でした。
間違っても「シラタマコ」とは読まないでくださいネ。


                              (
2001/3/8)

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