杭州寒蘭なまえものがたり

  3、名前の名前


 店の入り口を入って正面上段右端。
ここが「黄玉山」(こうぎょくざん)の指定席です。
端正に揃えた捧心が半分以上真っ白に抜ける、やさしい色合いの青サラサ。
懐に抱きかかえられているような安らぎを感じさせる花型と、小さな点をわずかに散らした白い舌。
細い花茎に花間をとって咲くバランスのよさ。
びっくりするような個性はないけれど、杭州寒蘭の良さを凝縮させたような、店主お気に入りの花。
この花を、店主の位置から眺めるのに絶好の場所がここだというわけです。


 この「黄玉山」という名は、黄さんの夫人(黄玉英さん)の名前をとってつけられました。
サラサだから山としたのであって、実在の山があるわけではありません。
このように、所有者(選別した人)の名、ゆかりの人の名からつけた花が、いくつかあります。



 
黄さん命名の青花「碧鈴」(へきれい)は、黄さんの娘さんの名前。
小川さんの青前面無点花「淑水」(しゅくすい)は、初恋の人の名前をとったそうです。
谷原さんの素心「雪望」(せつぼう)の'望'はご本人の名前です。
藤山さんの青前面無点花「緑萌」(りょくほう)は、命名の頃生まれたかわいいお孫さん、萌子ちゃんからつけました。


 
青花ではトップクラスの一角に食い込めると期待されている「草楽」(そうらく)肉厚のしっかりとした花型で、棒心の覆輪が真っ白に深く入ります。
プレゼントしてくれた草地さんの名前をとって、持ち主がこう命名しました。


 松下さんの濃色紅サラサ「赤松子(せきしょうし)は、1998年のデビュー。
「赤松子」って何だ!って思いません?
これは古代中国の仙人の名前。
神農(炎帝)の時の雨師で、後に崑崙山に入って修行し、仙人になった人です。
この名前の中に松下さんの赤花という意味が隠れているのです。
お見事! 座布団1枚さしあげます。


 吉祥山(きっしょうざん)は、大輪の青サラサで色に濁りがなく、舌も広く、捧心の覆輪が深く、花間も良く、咲きはじめは完璧と言えるほどなのですが、数日で捧心が開いて全開状態になるという堂々とした花です。
舌も捧心も白くきれいで、花によれがないので、開いても厭な感じを与えないのですが、捧心が開くのを好まない人には、「これで開かなければねえ。」と言われます。


 この花を命名したのは砂川さん。
最初花の姿から「大王山」(だいおうざん)とつけたのですが、奥様の名前から'祥'をとって、「吉祥山」と改名しました。
ご本人はゴマをすったつもりが、全く評価されなかったというおまけもつきました。


「甘い!!」


                            (2000/12/23)

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