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           9 (2003/10/5〜2003/3/28)
2004/3/28
 えびねマニアのKさんはいつも胸を張って自慢します。「うちのえびねは一鉢も病気(ウイルス病)はでません。新しく入れたものも一年作って出なければ、もう心配ありません。」
 いま3鉢ほど店に飾ってくれていますが、4号の素焼き鉢を使って、中粒のえびね用土で植え込んで、水を張った受け皿にいれて、冬は日本家屋の座敷のなかで、作っているのだそうです。
 夏は外の雨のかかるところに移しているそうですが、特に対暑対策をしているわけでもなく、熱帯夜がないところでもありません。安眠したい冬は暖房をつけたりきられたりして落ち着きません。

 にもかわらず一鉢も病気にならないのは、不可解というほかありません。ウイルスフリー株ならわかりますが、国際動物専門学校の校長で農学博士でもあるGさんも、そんな株はないと断言しています。
 パスツール研究所でむかし、ウイルスフリー株を一年培養したら全部感染株になっていたそうで、Gさんも感染のことを気にするより、病気を出さないことが肝心だと力説しています。

 えびねは、私が思うには、実にかたくなな植物で、許容できる範囲をちょっとでも逸脱すると、簡単に病気になってしまうようです。決していいとは思えないKさんの作場ですが、なぜか居心地がいいのでしょう。
 夏は暑がらせない、冬はゆっくり冬眠させてやる・・そう考えてえびねを作り出してから、発病率は10l以下に抑えられていますが、まだこれで十分というわけにはいきません。
 えびねの開花を前に、発病率ゼロへの挑戦をあらためて誓う次第です。


2004/3/21
 昨年の3月23日の「今週の話題」によると、えびねの開花が大幅に遅れているとあります。3月に入っても寒さが続いたため、冬至芽は膨らんできたが蕾がみえるのはまだひとつもない状態と書いています。
 一転してことしは、もうニオイエビネの「極」と「雛の宴」がほとんど満開です。早めに室内に入れていたとはいえ、春蘭展が終わらないうちに咲き出したのは、開店以来はじめてのことです。

 すでに、三分の一は蕾をのぞかせている状態で、なかには色づきはじめたのもみられます。昨年と違って2月が暖冬、3月も早々と夏日を記録する暖かさで、18日には東京でも桜の開花宣言がでました。
 観測史上二番目の早さとかで、平年より10日も早く咲いたそうですから慌ててしまいます。年間スケジュールでは、えびね展は4月14日からと決めてしまっているので、いまさら変更はできません。
 植物の場合、開花を早めるのはそれほど難しいことではありませんが、遅らせるのは至難の業です。あとは神頼みで、寒の戻りの花冷えを祈るほかはありません。

 昨年は夏と秋が逆転する異常気象でした。ウイルスを心配して、えびねの株分けを控えたのがよかったのか、期待以上の太い花芽があがってきています。私の脈拍もぐんぐんあがってきました。
 例年のことですが、期待と不安の二つがこれからは膨らんできます。不安というのは勿論ウイルス病のことです。この悩みから開放されたら、えびねほど楽しいものはほかにないでしょう。
 いまの発病率5〜10%を完全にゼロにする培養法はないものでしょうか。


2004/3/14
 有難いことに、回を追って人気コンクールの質があがって、ことしはお世辞抜きで見ごたえがありました。
参加するだけでなく、賞品を積極的に狙った出品も一番多かったように思います。
 せっかく上手に作っても会期にタイミングが合わなければパーですし、努力に運も味方してくれないと、人気bP賞への道は遠いといえるでしょう。
 にもかかわらず、出品不足に悩まされることもなく、大変盛会だったことには、この紙面を借りて心から御礼申し上げます。これからもよろしくご協力のほどお願いいたします。

 さて、Fさんが途中から出品した「西蔵野素」が4位に食い込みました。初日から飾られていたら、あるいはトップに立ったかもしれない人気でした。「雲南雪素」系の奥地の蘭でチベット産です。
 葉丈が「雲南雪素」より詰まっていてやわらかく、どちらかといえばイトランに似ています。花は一茎二、三花で直立せず、半垂れで、葉丈とのバランスがよくマッチしていました。
 もちろん完全素心(白胎素)で、「雲南雪素」よりもひょっとすると白いのではないかと思えるほど、目にしみる白さです。ただ、どういうわけかこの「西蔵野素」は、まだ輸入された話を聞きません。
 Fさんの大学の恩師が、西蔵から持ち帰ったものをいただいたのだそうです。数年前に一度拝見したのですが、まだ木ができていなくて、その非凡さを見過ごしてしまいました。
 もしかしたら、近く細葉蓮弁蘭の人気bPにのし上がるかもしれませんね。


2004/3/7
 早いものですね。またウチョウランの水遣りの日(8日)がやってきました。若い頃は時間が遅々として進まず、早くその日が来ないかといらいらして待ったものですが、いまは全く逆です。
 えっ、もう1年経っちゃったの、そんな感じです。こんなに速く走れたら、オリンピックでも表彰台は間違いないところでしょう。時間は速く流れますが、動きの方は年齢とともに、どんどん鈍くなっています。

 2月はお天気続きで、観測史上初めての暖かさだったようですが、冬眠と決め込んでいました。やらなければならない事を一日伸ばしにして、中国蘭の“薫浴”ですよ、としゃれこんでいたのが祟りました。
 ひと嗅ぎ10年長生きできるとなれば、それも必要でしょうが、最近は鼻も利かなくなりました。折角の“薫浴”も効き目の程はあやしく、無為に時を過ごしていただけのようです。そして気がついたら5日は啓蟄。
 冬眠中の虫だってもう穴から出てくるというのに、本当に慌てています。ウチョウランの用土は急かされて数日前に作りましたが、肝心の東洋蘭の方はまだ手付かず。したがって株分けの植え替えもままなりません。

 暖冬のお蔭で、春蘭展(21日まで)が終われば、えびね、そしてイワチドリ、ウチョウランとつづいて、ことしは幕間をのんびりとっている間もなさそうです。それだけに何もせずに過ごした2月のロスがこたえます。
 皆さんも経験があると思いますが、追いかけるのと追われるのとでは、月とすっぽんほどの違いがあります。備えあれば愁いなし、とちゃんと昔の人は教えてくれているのですが、凡夫の浅ましさで、いまになって慌てています。
 みなさんのところではどうですか。言えた義理じゃあありませんが、園芸に不精は大敵です。


2004/2/29
 大学の同級生(女性)が蘭が咲いたと感激してメールをくれました。昨年のいまごろ、イトランの白花をあげたのですが、まさかことし花を咲かせられるとは思ってもいませんでした。
 二つも花が付いたと大喜びで、デジカメで2センチまで接近して、マクロモードで撮った写真を送ってきました。喉の奥のピンク(桃腮素)が見事に映し出されていて、写真の腕前もなかなかなものでした。
 皮肉なもので、私の方は大株を持っているのですが、花はたった一つ付いただけでした。この差はなんなのか。ひとえに愛情のかけ方の違いというほかないでしょう。

 愛情という点では、ことしの人気コンクールも教えられることが一杯です。Eさんが出した「舞蝶」が、八花とも行儀よく正面を向いて咲いているのに驚きました。八花もくると、てんでんばらばらで、思うようには決して咲いてくれません。
 むかし、黄さん(故人)がよくいっていました。「蘭は一年に一度しか咲かないんだ。それなのに、そっぽを向いて咲かせるなんて、蘭作り失格だよ」蕾のときから棒を立てたりして、向きを変えていた姿が懐かしく思い出されます。
 同じくEさんがだした「寰球荷鼎」も、七花のうちの六つが殆ど同じ向きで咲いていて見ごたえがあります。葉も実に綺麗に作られていて、鉢にも神経が行き届いていました。蘭華譜でも、鉢は蘭の住みかなり、とうたっています。
 Oさん、Naさん、Kさんもそれぞれ個性のあふれる作りで、蘭はそれぞれ選ばれた鉢の中で、生き生きと咲いています。ことしの人気コンクールは一段と質の高いものになったといっていいでしょう。
 そんなわけです。ぜひご覧になって一票を投じてやってください。おねがいしまーす。


2004/2/22
 中国春蘭に「珍蝶」という可愛らしい奇花があります。奇花はあまり好きではないのですが、この花だけは例外です。欠点は花に較べて葉が長すぎることでしょうか。何とか小さくしようと、水をからく肥料も控えたら、花がつかなくなってしまいました。

 先日、アマチュア主催の中国蘭展を見に行ったら、「珍蝶」によく似た花で、葉姿が中垂れで短めで、花とよくマッチしている株が出ていました。赤札が入っているだけで名無しでしたので、訊いてみたら交配ものでした。
 片親は「珍蝶」で、日本春蘭の「光琳」をかけて作ったものだと聞きました。数十株を発芽させて、10年近く育てた中で、一番優秀なものを展示したそうです。香もあるというので、まずは成功した例でしょうか。

 これからはこういった交配ものが少しずつ増えてくるものと思われます。天然ものでなくても、いいものはいいのですから、堂々と掛け合わせて作りましたといえばいいのですが、現実はだいぶ違うようです。
 私のように天然ものにこだわる愛好家がけっこういること、交配とわかると、似たような花が続々作り出される恐れがあるので、山採りから出たという形でデビューするものが少なくありません。
 また、天然ものでも本物がよくわからないものを、名前だけで売ったり買ったりするケースも多いようです。他人が持っていない珍しい物を手にしたい気持ちは分かるのですが、そこに落とし穴があるようです。
 ある人がヤフーのオークションで買ったという「翠桃」が咲いたら似て非なるものでした。「翠桃」は本物がはっきりしていたからいいですが、そうでなければ別物を一生懸命作らされる破目になりかねません。
 蘭は名前で買うな、花を見て買え。これは蘭作りの鉄則です。花がよければまだ救われるというものじゃないですか。


2004/2/15
 22日から人気コンクールが始まります。ちっぽけな店の8畳ほどの二階でやる催しですから、並べられる鉢数だって、30程度でたかが知れていますが、回を重ねるにしたがって少しずつ様になってきました。
 第一回目に「宋梅」の大株をだして、見事1賞を獲得したEさん、昨年「緑雲」で金的を射止めたOさんも、密かに二度目の栄冠を狙って、開花調整をしているようです。
 22日から3月7日の15日間ですから、開花調整に失敗すると、後半に花がくたびれて失速したり、前半開ききらずで票に結びつかないといった結果になります。一年の努力も水の泡です。

 Naさんが先日、10数条だちの「女雛」をお客様コーナーにだしてくれました。花もいい色で咲いていました。本来なら人気コンクールの出品を狙っていたのでしょうが、早く咲き過ぎて、花も2輪といささか淋しく、諦めたのではないでしょうか。
 Sさんはもっと悲劇でした。例のクマネズミの襲来で棚の9割が被害を受けたそうです。ひどいのは地上部分がほとんど食いちぎられていました。三年前、人気コンクールを中止に追いやったのもつがいのクマネズミでした。
 そんなわけで今年は出品するものがないと嘆くSさんですが、人気コンクールは1賞をとるのが目的ではなくて、参加することに意義があります。たった1輪の「翠桃」でしたが、人気を呼んで、昨年はけっこう票を集めていました。

 手塩にかけたものなら小さくとも、作る人の姿を写しているのが蘭です。大が小を制するとはかぎりません。小にもチャンスがあるように、1賞のほかに、もう一つ賞を考えたらとの声もあります。
 いずれにせよ、一人でも多くの方の参加を心から待っています。ご協力ください。

2004/2/8
 立春を待っていたように、中国春蘭が咲き始めました。真っ先に長生きの香を放ってくれたのは「翠桃」でした。大好きな花のひとつですが、昔は1条が10万円以上していて、欲しくても指をくわえているほかはありませんでした。
 品数も少なく、似て非なるものが2号翠桃、3号翠桃などと称して売られていました。私もある人から安くわけてもらった「翠桃」は、いい花でしたが別物で、のちに「秦卿梅」と名前が変わったと教えられました。
 ある人が「翠桃」といわれているものを意識的に集めてみたら、20鉢をこえてしまったという笑い話も聞いたことがあります。稀少品種だったことは確かで、いまでも品不足気味で、値段も高い部類に入ります。

 「翠桃」には赤軸と青軸があって、一般に「翠桃」といっているのは赤軸の方です。咲き始めは軸の違いを除けば、そっくりなほどによく似ているのですが、青軸は時間がたつと花形があばれてきます。
 むかし、長老の早川源蔵さんと黄業乾さん(ともに故人)が、咲き始めの赤軸と青軸の花をみくらべて「こりゃあ全く同じだわい」と話していたのを、昨日のことのようにおぼえています。
 赤軸の方は開ききると、滅多に乱れることはありません。特徴のある菱形の花びらと所謂三弁一鼻頭の愛嬌のある花形は、いつも変わらずに、同じ姿で暖かく迎えてくれます。そして一ヶ月以上続いたある日、花首をがくっと折って静に命を終えているのです。

 それに気がついたのはもうかなり前になりますが、水切れもしていないのに、朝、店に出てきたら首が折れていました。どきっとしました。以来「翠桃」をみると、終焉のシーンがだぶります。
 70代の半ばに来て、「翠桃」のように生きられたらいいなあ、と欲張ったことを考えるこの頃です。

2004/2/1
 東洋蘭の愛好者といえば、大方が熟年を過ぎた人たちですが、最近は、男女を問わず若い人が興味をもつ傾向がみられます。先日も「見せてください」と入ってきたのは、20代の女の子でした。
 造園業を営む家に育ったそうだから、下地はあるのだろうけれど、店の前を車で通るたびに気になって出かけてきたという。洋蘭には殆ど興味がなく、「香りがいいわ」といいながら、恋人でも見るような熱い熱い眼差しでした。

 なぜいま東洋蘭なのか、はっきりした理由はわかりませんが、世の中が少しずつ変わってきているのでしょう。アメリカの経済学者J・K・ガルブレイスは、日本はGNP(国民総生産)に行き過ぎた関心をGNE(グロス・ナショナル・エンジョイメント=楽しみ)に向けるべきだ、と「私の履歴書」(日経)の中でいっています。
 楽しみを求めて、それぞれに新たな消費がうまれれば、長かったデフレも一段落することでしょう。偶然にも同じ日に若い子が二人も店に来たことは、新しい時代の幕開けを予言しているような気がしました。

 大好きな中国春蘭の復活も勇気を与えてくれます。採取されてから200年以上の伝統をもつ、自然が生んだ野性蘭は、いま本家の中国で引っ張りだこです。日本から大量に里帰りしてこちらでも品薄になった品種がでてきているようです。
 現金なもので、ことしはプラ鉢全盛から意識して本楽鉢を使い出しました。入れ物が変わると途端に中身もぐんと引き立ちます。蘭の方もそれに応えて機嫌よく咲いてくれることでしょう。
 22日から始まる人気コンクール、ことしはどんな力作が出品されるか楽しみですが、出す方も見る方も、楽しみを求める時代が目の前に来ているのを感じるのではないでしょうか。

2004/1/25
 先日、上海に住む、全く知らない蘭商から蓮弁蘭の写真が2点、メールで送られてきました。一つは舌点がハート形をした大きな紅一点で、花形も円弁でいい花でした。いま一つは舌が花弁化した、中国人好みの奇形素心でした。
 どちらもいい花には違いないのですが、値段を見てびっくりしました。「心心相映」の花名を持つ前者は、1芽が12,800元、日本円にして20万円、後者は58,000元、円にするとなんと90万円となっていました。

 店に来るマニアの中国人にきいたら、妥当の相場でしょう、と軽くいなされてしまいました。給料が月1万円もらえれば悪い方ではないといわれる中国で、蘭の相場はかけ離れたものになっているようです。
 いま中国は貧富の差が極端で、金持ちは日本のメジャーでは量りきれないほどの大金持ちなのだそうです。その人たちが金に糸目をつけずに買いあさった結果が、例の九華の高騰を生んでいるのは周知の事実です。
 花芽の付いた南陽梅や程梅を1株(4、5条)2万円前後で道楽で手に入れたら、二年もたたないうちに5倍、10倍に跳ね上がったのには、開いた口がふさがりませんでした。お蔭で少々儲けさせてもらいましたが、いまの中国の蘭はバブルもいいところです。

 蘭はお金儲けのためにやるものではありません。好きだから側において育てたいので、お金のためにやるなら、水も要らない、紙の方の株をやったらいいのです。寒蘭の名品にも春蘭の名花でも、手の届く安いものはいまなんぼでもあります。
 大事なのは値段ではなくて、いかに上手に育てるかでしょう。人気コンクールで賞をとれるような見事な作品ができたら、蘭冥利につきて気絶しそうです。おまけに、気ままな大金持ちが欲しい欲しいといいだすかもしれません。
 その時は・・実は、飛び切り高い値段で売り飛ばして呵呵大笑している夢を、最近見たばかりです。


2004/1/18
 こんどは鶏のインフルエンザです。TVで死骸の山を見ると背中がぞくぞくっとします。いまのところ卵など食べても心配ないとのことらしいですが、ベトナムではこの鳥インフルエンザ・ウイルスが原因で何人かが死んでいます。
 鶏の前はアメリカのBSEがこれも大きな社会問題になっています。牛丼の吉野家の社長が、将来的にも考えられない最大の試練と話していましたが、薄給のサラリーマンにとっても大いなる痛手に違いありません。
 さらにSARS の台頭です。ようやく明るさが見えてきた観光業界は、SARSがまた猛威をふるうようなことがあれば、再び冬の時代に逆戻り、薄日が差してきた景気そのものもたちまち後退してしまうでしょう。
 この頃は魚の水銀汚染は鳴りを潜めていますが、これだっていつ再燃するかわかりません。いまのところ無傷の豚もどんな落とし穴が待っているか、知れたものではありません。

 早くも牛丼にかわって豚丼が登場と新聞に出ていましたが、有史以来世間をひっくり返すような事件は枚挙に暇がありません。ペストしかり、スペイン風邪しかり、その都度人間はしぶとく乗り越えてきています。
 30年前、園芸店を始めて間もなく、えびねのウイルス旋風に見舞われたのを思い出します。一時は廃業まで考えました。高価なものを泣く泣くどれだけ処分したかわかりません。それでもしぶとく生き残ってこれたのは、逃げずにまともに対処したからでした。
 誤魔化しは命取りになります。鳥インフルエンザもBSEもSARSも、しばらくしたらそんなことがあったっけと笑い話になるでしょうが、ともあれ被害は最小にとどめたいものです。当事者のみなさん、がんばってください。


2004/1/11
 明けましておめでとうございます。ことしもどうぞよろしくお願いします。

 さて、東京の三が日は天気もよく、風もなく、穏やかで暖かでした。こんな正月はこれまでにはなかったような気がします。ぬくもりの日差しに抱かれて、なんとなくいい年になるかなと、うきうきした気分になったことでした。
 が、それを一変させたのが先日の朝日の朝刊です。地球の温暖化で50年後には動植物のなんと2〜3割が絶滅するかもしれないという記事でした。ショックでした。お屠蘇気分は素っ飛んでしまいました。

 温暖化の傾向はここ数年は特に顕著で、身の回りでも“異変”が色々起きています。中国春蘭の天緑梅が暮のうちから開き始めたこと、早めに暖房をいれたにしても、こんなことははじめてです。イトランももう見ごろになっています。

 昨年の夏の天候不順では、えびねの病気を恐れて、秋の株分けをする気にもなりませんでした。その割りに見た目の出来がいいのは嬉しいのですが、いささか不気味でもあります。温度変化に敏感なえびねにとって、気温の上昇は命取りになりかねません。
 店を始めた30年前は、正月は水道の水が凍っていて、すぐには水遣りが出来ないのが当たり前でした。いまは凍るのが珍しく、この冬はまだ一度も凍結はありません。えびねの咲く四月が待たれますが、いささか怖いような気もします。

 反面、四国、九州より平均気温が一、二度低いハンデが、この温暖化で解消され、寒蘭などは昔に較べると上手に作れるようになった節もあります。杭州寒蘭も最近は少し扱い易くなったのではないでしょうか。
 だからといって、急速な温暖化がいいわけはありません。たかだか7、80年しか生きられない人間の尺度で物事を判断したら、地球がくしゃみをしちゃいます。みなさん、温暖化防止にご協力を!

2003/12/21
 押し詰まってきてあちこちで杭州寒蘭展が開かれました。東京・大丸で18日から一週間、日中友好会館で19、20日、調布の市民会館で20、21日。日中友好会館と調布はアマチュアの会の主催です。

 今年も時期々々で色々な展示会がおこなわれましたが、贔屓目でなしに、杭州寒蘭はその存在を大きく全国に知らせる結果となったのではないでしょうか。もう10回を数えた三重の展示会も強力なアッピールでした。
 個人の店で商売をやっている関係で、これまでは三重まで足を伸ばすことができないでいましたが、ことしはルーペのSさんがビデオをとってきてくれました。想像以上の質の高さにショックをうけたものでした。

 ことしは開花予想が大きく狂って、早くに咲き出してしまったこと、遅いものはまた極端に遅れていること、アザミウマ、スリップなどの大被害が発生したりして、杭州寒蘭にとっては厳しい年でした。
 それでも、どこの会場に行っても、息を呑むような素晴らしい花にいくつかは出会うことができました。病虫害対策さえしっかりやれば、ほぞをかむこともなく、来年は名花の倍増でどこもにぎわうことでしょう。
 中国とのパイプも太くなって、選別された株が続々入り始めました。質があがれば杭州寒蘭への関心もうなぎのぼりです。ここ2、3年で間違いなく爆発的なブームがやってくるでしょう。

 杭州のよさを日本国中に広めたいという願いは、どうやら叶えられそうな気配となってきましたが、そのためにも名花を着実に増やすのが蘭商としての私の義務です。が、こちらの方は何時までたっても一向に埒が明きそうもありません。
 お恥ずかしい限りですが、やはり作りのうまい西の人たちに本腰を入れてもらう他はないような気がします。

 (ことしはこれで打ち止めにします。ご高覧ありがとうございました。来年は11日から始めます。引き続きご愛読のほどを。どうぞ良いお年をお迎え下さい。)


2003/12/14
 このところ中国の蘭に関するHPを見る時間が多くなりました。特に杭州寒蘭に関するものは片っ端からみています。そしてあることあること。驚くほどの普及振りで、こちらの情報不足がお恥ずかしい限りです。
 掲示板にあたる情報交換欄などを見ると、一つのニュ―スに3、40から100を越す反応が寄せられていて、もし中国語が自由に読めたら、気絶するほどのショックを受けているに違いありません。

 寒蘭の字を見つけて、そこをクリックすると大抵は写真がでてきます。7割方は杭州寒蘭で、下山という字がついています。これは中国語で山採りという意味だそうで、マニアの山採りが盛んな様子がよくわかります。
 中国の人は奇形が好きで、変わっていればなんでもOKといったところがありますが、こちらが涎をたらすノーマルな花もごまんと選別されています。見つけ次第スライドショウにとりこんでいますが、その数はどんどんふえていきます。
 PCなんて金輪際やらねえぞなんて、以前は粋がってたものですが、世の中の変化には素直についていかなければいけません。時代遅れの無用の長物になるところでした。あらためてPCをけしかけた白石さんには感謝しなければいけません。

 ところで、こうなると選別株をどうやって入手するかがこれからの大きな課題です。もっと若ければどんどんあちらまで足をのばすのですが、2、300mで足が痛くなる身ではそれもかないません。
 幸い橋渡しを買ってくれそうな、日本語のうまい中国の人が複数みつかりました。素晴らしい杭州寒蘭を日本にも普及させたいという私の願いが叶えられるかどうか。長いお付き合いが出来る方だといいなあと願っています。
 先人の教訓の一つに、蘭は人を買え、とあったのをいま思い出しています。


2003/12/7
 杭州寒蘭が真っ盛りです。あと10日ほどが絶頂期ではないでしょうか。昨年に較べると半月以上開花が早かったことになりますが、年が明ければ心は春蘭というのがごく自然ですから、タイミングとしては丁度よかったといえそうです。
 「紫芳山」がこれまでで最高の色をだし、他の濃色花もまずまずで咲き、花形も、寒い乾いた空っ風にあおられる前だったので、狂いはほとんどなかったようです。ここしばらく話題から遠ざかっていた暴れる「昆明湖」も、すばらしいと再評価されていました。

 ところで、ことしは中国からこれまでにない量の杭州寒蘭が入ったようです。それも花未確認株だけでなく、選別株もせっせと持ち込まれています。大変けっこうでよろこばしいことですが、一つだけ心配の種があります。
 以前にも書きましたが、咲き始めの杭州寒蘭に駄花はありません。みなすばらしくみえます。それが曲者で初心者はころりとひっかかってしまいがちです。花形もそうですが、サラサの濃淡は日とともに変わっていきます。
 咲きはじめと終花ではこれが同じ花なのと確かめたくなるほどの変わりようです。名花はその移り行く過程がなんとも見飽きないのですが、そうざらに名花はころがっていません。この事を肝に銘じて置くことが大切です。

 以前、1条20万円で買い損なって悔しがった2タイプの素心は、10日後には5万でも要らない花に化け、青々とみて手に入れた株は、子房にこれでもかというほど色が乗ってしまい、無点が有点に変わるのは日常茶飯事のことです。
 もちろん、怪我を恐れて石橋をたたいていては妙味がありません。そこは税金を払って身をもって覚えていくほかないのでしょうが、買うのは、慌てる乞食はもらいが少ない、と口の中でとなえてからにしてはいかがでしょうか。
 但し、歴史のある名品は別です。こちらの方は安心してお求めください。


2003/11/30
 先日銀座で年末のジャンボ宝くじを買う行列に出会いました。長蛇の列でした。一髪千鈞を夢見る気持ちは痛いほどよくわかります。杭州寒蘭の山採り株に群がるマニアも思いは同じでしょう。
 ことし入った花付き株は一回目は完売、二度目も完売に近い売れ行きでした。都内のよその店でも飛ぶように売れていたそうですから、杭州寒蘭の人気がここに来て急上昇しているのがよくわかります。

 10年ほど前、濃い紅サラサの「赤壁山」を山採りの中から見つけ出したHさんは、今年は大阪の方まで足を伸ばしてお宝探しに専念したそうです。名品を買う方が安上がりという人もいますが、Hさんは射幸心を燃やす方に魅力を感じるそうです。
 大当たりを念じて買った株がここに来てどんどん咲きはじめています。Hさんも二、三楽しみな花が咲いたようです。そこで宝探しのこつをきいてみたら、運と努力とタイミング―これが優品を見つけるための三つの心得だそうです。
 努力はきっといつかは報われますと、なんだか最後は人生そのもののようなお話になってしまいましたが、努力抜きの運とタイミングで得をしたのが今年の私でした。お客様はきっとトンビに油揚げをさらわれた心境でしょう。

 大株で売れ残っていた株がありました。だれもがいい花が咲きそうだというのですが、値段が張るので買い渋っていました。それが二日間の休みの間に開いて私の手に落ちてしまったのです。白石さんが「探花郎」とさっそく命名してくれたほどの花です。
 十日経っても花形は少しも狂ってきません。どうやら運まで味方してくれたようですが、「探花郎」を越す花の報告がまだ来ていないのがやきもきする所です。店主が幸運の独り占めでは話になりませんからね。
 だから、誰かのところでどんでん返しの花が咲いてくれるのを、今か今かと待っているこの頃です。

2003/11/23
 気がついたら30年たっていました。大学を出てスポーツ記者20年のあと、西も東も分からないままに園芸の店をはじめて、この11月末で丁度30年になります。我ながらよくも続けられたものだと驚いています。

 大学卒業の時が不景気で、スポーツとは無縁だった男がひょんなことから野球記者になり、面白おかしくあっという間に20年。園芸とも全く関係ないのに、これからはレジャーの時代と、無鉄砲に退職金をつぎ込んで園芸店主になりました。
 開店のとき景品にだしたキエビネをどこの産ときかれて、千葉(の生産者)からいれたので「千葉産です」と答えてしまうほどの、無知さかげんでのスタートですから、本当に30年もったのが奇跡です。
 かみさんは、毎月いただけるものさえいただければ何をやっても結構、と動じないのに刺激されて、また甲斐性もないのに男の子が三人いたので、簡単に万歳するわけにはいきませんでした。無我夢中でした。

 そしてあっという間の30年。起きて働いて寝て、気がついたら古稀をとうに過ぎて、一体俺は何をしてきたのだろうかと一瞬空しい気にもなりますが、反面、理屈ぬきでの充足感らしきものがないわけでもありません。
 名もなく実もなく、その他大勢の人生ですが、いまさら不満なんてありません。これからもごく身近にいる人たちに、ほのぼのとした明りでもちょっぴり灯せたら、それも悪くないような気がしますから、だから隠居なんてしません。生涯現役でとおします。
 杭州寒蘭がようやく日の目をみようとしているいま、張り切らざるをえないじゃありませんか。しばらくすると足が痛んで長くは歩けない身ですが、誘いもあるので、近く中国に出かけることも考えています。
 てなわけで、老いてますますバカ元気なすずき園芸です。可愛がってやってください。

2003/11/16
 杭州寒蘭の開花が勢いづいてきました。昼間暖かい日が多くて夜ぐっと冷え込むのがよかったのか、12月を待たずに11月下旬にはもう見ごろを迎えそうです。ここ数年は遅れるばかりだったのが、今年は日本の寒蘭と大差がありません。
 少し遅く花をあげた日本の寒蘭は、発色がことしはすばらしく、特に紅系が見事で「緋燕」や「日向の誉」は、ここ数年のなかで一番の出来でした。杭州寒蘭も例外ではなく、緑がよく冴えているような気がします。

 開花が早まったことでのプラスは花型の乱れが少ないことです。形が乱れずに咲いた「昆明湖」は、青花の中でもトップランクに入りますが、咲き始めたときに寒さに遭うと、そりくりかえってしまって見られたものではありません。
 花形の乱れは花肉の薄い厚いにも影響されますが、気温の急激な変化が一番大きいようです。比較的暖かかった陽気が一転して寒くなると狂う花は、そのへんをよく飲み込んだ作りを心がけるべきでしょう。
 日本が生んだ最高の名花「豊雪」は、どんな気象条件のもとでもびくともしません。咲き始めぐっと後ろに反り繰り返ることがありますが、手を加えなくても、翌日にはもう優美な姿に戻っています。

 ただ、色の方は極端で、一週間早く花芽をあげた「豊雪」は淡いグリーンのままで咲き、遅れた方の「豊雪」は本来の見事な乳白色となっています。その点、杭州寒蘭の色は気象条件に大きく左右されることはないようです。
 こちらはむしろ日のとり方が大事で、薄墨系の濃色サラサは花芽がきたら日を弱くし、紅系の「紫芳山」は逆に強くするほうが特徴を生かせるようです。緑も濃いものは日を強くとり、淡い方が味のあるものは弱く作るべきでしょう。
 一年にたった一度きりの花、できるならきめ細かい管理で、最高の状態で咲かせてやりたいものですね。

2003/11/9
 もう30回を数える私の店の寒蘭展も、ここ数年は後に続く杭州寒蘭展の前座になってしまっています。いらっしゃるお客様の目的は、日本の寒蘭はついでのことで、中国から入った花不明の杭州寒蘭が目当てなのです。
 ことしは特に花が遅れて、10月22日の初日にはまったくといっていいほど咲いていませんでした。杭州なら日に日に変わってくる蕾の変化を見逃せませんからいいのですが、日本の寒蘭はやはり咲いてくれなければ話になりません。
 開花の遅れもひびいて開店以来はじめて、展示会中のお客様がゼロ、売り上げももちろんゼロという不名誉な新記録の日が出てしまいました。全盛時代なら考えられない出来事でした。

 新記録といえば、私の蘭小屋で作りの難しい「白妙」(大和系)が、なんと5枚葉の新芽をあげたこと。それも前年の葉幅12ミリに対して、ことしは21ミリと倍近い勢いで、花まで5花つけたのには、「一体誰の作?」と目をむくほどでした。
 「華神」が絵になる姿で咲いてくれたこと、「緋燕」が無点で開いたのも初めてのうれしいできごとでした。「華神」は3輪と2輪と2本の花をあげて、花のない中をひとり頑張ってくれました。
 たった3輪しか花がつかない作りでは、誰からも相手にされないでしょうが、もう1本の2輪とうまく相乗効果をあげてくれました。開き始めてから全開になるまで、杭州寒蘭と同じように一週間近くかかるのは新しい発見でした。

 「緋燕」も産地の人たちから見れば一回りも二回りも小さい花ですが、久し振りに張りのあるいい色で咲いてくれました。まだ蕾が上をむいている「豊雪」もいい感じです。多すぎる花数もことしは手頃な7つで、本来の乳白色になっています。
 「今からでも見に来てくださいよ」彼らは声をそろえてそう叫んでいます。どうぞ、見てやってください。

2003/11/2
 昨年のいまごろ、この欄で昔の色鮮やかな杭州寒蘭の産地は、福建省の北にある武夷山系であるらしい、と書きましたが、これは当らずとも遠からずだったことがわかりました。
 ことしの花未確認株を世話してくれたSさんの話では、こんどの産地は杭州から200キロほど離れた麗水地区だそうで、武夷山系の東の外れになるようです。そこから杭州との中間に、マニアの多い紹興があって、杭州寒蘭も少なからず愛培されているそうです。

 これまで春蘭全盛の中国でしたが、ここにきて武夷山系の寒蘭が注目されだして、なかには「蘭の中の王」とまで高く買う人たちもいると聞きます。寒蘭が評価されだしたのは大変結構な話ですが、困るのは値段の急速な跳ね上がりです。
 ことしはなんと昨年の4倍だといわれて、一時は仕入れをあきらめもしました。Sさんを知って、どうやら未選別株を安く手に入れることができましたが、それでも間違いなく昨年の倍以上の値段になっています。
 中国での寒蘭を見直す動きとともに、日本でも杭州寒蘭への熱が急速に高まってきたのが重なって、商売に敏感な人たちが便乗してきたのでしょう。現地での選別品の価格も、えっと聞き返したくなる数字になっていました。

 ことし一月に出版された「乃安居芸蘭筆譚」に載っている濃緑の素心は、1芽20万円以下では売らないと持ち主は強気だそうです。現地でこの値段だったら日本ではいくらになることでしょうか。考えただけでぞっとします。
 杭州寒蘭の普及のために、それと無責任な高騰を防ぐために、価格の上限を決めてこれまでやってきた努力は、遠からず間違いなく、簡単に押し流されてしまうことでしょう。といってブームに水を差すこともできません。
 “To be or not to be: that is the question.”(生きていくべきか死すべきか、それが問題だ)まさにハムレットの心境です。


2003/10/26
 AONの写真投稿ページ「天狗の花」に、すばらしい「宋梅」の花がでています。光琳さんが一昨年に咲かせたものだそうですが、この写真を見た途端に、Yさんは「宋梅」の株を買い求めていました。

 それほどに見事な梅弁で、もう30年近く「宋梅」の花は見ているのですが、これほどに丸く咲いた花はお目にかかったことがありません。光琳さんは、翡翠色の梅の花のようだ、と言っていますが、色も抜群によくでています。
 中国春蘭は2、3鉢しかやっていないようですが、「宋梅」は駆け出しの頃からもっていたそうで、作り方も色々実験したようです。日本春蘭のように遮光したら、色はでなかったとかで、太陽と水で作りなさいと薦めています。
 つまり自然作りが「宋梅」にとっては一番いいというわけでしょうが、そこがポイントで、私が中国春蘭にほれ込んでいるのもそこにあるのです。小細工せず自然に咲かせた花が、芳香にむせて翡翠の色が目にしみわたるから、離れがたいのです。

 「宋梅」には、山採りしたときの水仙弁に近い花と、作りこんでから変わってきた梅弁の花と、2系統あることが蘭寶ャ史にも載っています。水仙弁に近い花も味がありますが、私は断然梅弁党の方です。
 むかし花なしで安く買った「宋梅」が水仙弁系で、とどのつまりは梅弁の「宋梅」を買いなおして、結果的に高い買い物になった苦い経験があります。なんでもそうですが、花を確認して入手することが大事です。
 光琳さんの花をみて「宋梅」愛好者がどんどんふえてくれたらすばらしいですね。例の春蘭人気コンクールも「宋梅」にテーマをしぼってやれる日がきたら・・そんな風に考えるとわくわくしてきます。

 寒蘭の時期だというのに春蘭の話で恐縮ですが、花が遅れてご迷惑をおかけしています。閑話休題ということでお許し下さい。

2003/10/19
 中国春蘭の花芽付きがこのところよく売れています。「お客様コーナー」の企画がタイミングよかったのでしょうか。中国春蘭をやる人がふえれば、人気コンクールももっと盛大にできるようになるはずです。
 宋梅、集園(老十円)、竜字、汪字の四天王をテーマに、大勢の人が作りを競い合ったらどんなに楽しいことでしょうか。東洋蘭の醍醐味を満喫できるに違いありません。賞品を出すこちらも出し甲斐があり、力が入ります。

 ただ、四天王などの普及品が売れていくのは嬉しいのですが、特殊なものの注文も結構あります。例えば、端秀荷、万字、緑英、賀神梅など、あまり増えがよくないものは、いつも品不足で値段も張りがちです。
 お客様のご要望に軽く応えられないのが悩みの種ですが、一番困るのは本物かどうか判然としない品種です。月珮素、同楽梅、鶴市など、日本に果たしてあるのかどうかもわかりません。
 それなのに通販などで出回っていて、同楽などは咲かせてみると西神梅と区別がつきません。月珮も蘭寶ャ史に載っているサジ弁の花はなく、苦肉の策で、松村月珮、松山月珮などと注釈つきで扱っている次第です。

 つい最近もエン香の注文がありました。中国のお金持ちが欲しがっているとかで、向こうに持っていけばいい商売になるのでしょうが、集円とどこが違うのか、ずばりいえる人が日本にいるでしょうか。集円のよく咲いたときがエン香だという説もあるほどです。
 文献によれば、エン香は小円舌、集円は小劉海舌となっていますが、舌も時間とともに微妙に変わるので、判別は至難のわざでしょう。一番恐れるのは、集円がエン香という名で高い価格で出回ってしまうことです。
 ないものねだりはするな、名前で集めないで花をみて買え、わたしはいつもそう思うのですがいかがでしょうか。


2003/10/12
 それにしてもちょっと驚いています。まさかこんなに反応がすぐあるとは思いませんでした。「お客様コーナー」のことです。丹精込めて育てて増えた蘭を、同好の士をふやすために、お客様から格安で提供してもらおうという企画です。

 手始めに8日の水曜日から中国春蘭でスタートしてみました。これから寒蘭のシーズンが始まろうという時期でもあり、杭州寒蘭が入荷したばかりで、タイミングとしては決していいとはいえませんでした。
 ところが、毎日のように問い合わせがくるのです。HPの力もあるでしょうが、中国春蘭への根強い人気が底流になければ、こんなに力強い反応が見られるとは思えません。
 もちろん協力してくださった成田のTさんの力も大きいようです。20数鉢だしてくださったのですが、どれも見事に作られていて、思わず手が出てしまいそうなものばかりです。
 本家の中国でマニアが欲しがっている品物の問い合わせは、多分に投機筋の動きで手放しでよろこべませんが、大部分は普及品を買うなり、注文してくるのですから驚きました。
 これは200年以上つづいている伝統の重みでしょうか。ひと嗅ぎ10年長生きできる芳香と緑の粋を追及する中国春蘭は、蘭の中でも別格なのかもしれませんね。あらためてこれからも愛好者をせっせと増やしていこうという気になっています。

 「お客様コーナー」は中国春蘭だけではありません。えびね、寒蘭、ウチョウランなど、それぞれ上手に作っているお客様にお願いして、随時提供していただくつもりです。
 好スタートに気をよくして、いま夢がどんどんふくらんでいます。ご期待下さい。

2003/10/5
 捨てる神様もあれば拾ってくれる神様もあるんですね。ことしは4倍だといわれてすっかり諦めていた杭州寒蘭が、実質的には、昨年と殆ど変わらない値段で入れることができました。
 これも日ごろのわたしの行いがよかったからでしょうか。斡旋してくれたSさんの話では、オール花芽付き、根もいいというので、その通りなら、高くても即金で買うと約束していました。

 Sさんが直接持ってきてくれた株は確かにいい株でした。ところが、検疫を通すために根を綺麗に洗ったとき、花芽を欠いてしまった株が結構でてきたのです。花芽のない株を高く買うわけにはいきません。
 また杭州寒蘭でない株も買えません。Sさんも兜を脱いでしまいました。おかげで私はほぼ100%杭州寒蘭といえる株を、ならしてみれば、去年と殆ど変わらない価格で手に入れることができたのでした。
 9月という時期に入れたのも正解でした。花芽はまだ10cm以下のものがほとんどで、傷みは全くといっていいほどありません。そんなわけで、ことしほど自信をもって商いできる年はないということになりました。

 店に来られない方には、ことしもご要望があれば通販いたします。花芽付きは1条2,500円で、花芽も1条と計算します。(3条花付きなら10,000円です)花なしは1条2,200円です。ほんのちょっぴり上っていますが、笑ってご容赦ください。
 その代わり杭州寒蘭であることは99%保障します。根も短いのが多いですが(山採りから時間が経っていない証拠)しっかりしています。生水苔で一年管理するのもいいでしょう。太い根が気持ちよいほど長くドンとでますよ。
 こんどの株は麗水地区でとったものだそうで、最も杭州らしい花が咲いてくれるはずです。


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