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           7 (2002/10/6〜2003/3/30)
2003/3/30
 いよいよえびねのシーズンのはじまりです。この時期になると、朝は暗いうちから目が覚めてしまうというEさん。えびねファンなら誰しもが経験することのようです。

 私も例外ではありません。普段は出不精で滅多なことでは動かないのですが、この時期になると別人のようです。ざっと予定を挙げますと
 4月11日から上野グリーンクラブでやる日本えびね業者組合主催展。14日か15日は日帰りで鹿児島の霧島園。16日からはこちらの展示会ですが、18日からの日本えびね協会展(伊豆)も見逃せません。
 ニオイ、コオズとなると、下田にも足を伸ばしたいし、静岡の方にも出かけたいのですが、体が一つではどうにもなりません。

 ことしで4度目になる霧島園は特に楽しみです。同業者の盛華園が、天然もののニオイで先行の霧島園を追いはじめて、九州のニオイブームがどこまで加熱するか。
 東京のえびね業者としては、ニオイが全国的なブームになるのは、大変けっこうなことなのですが、困るのは価格です。カタログには何十万とか時価(100万以上)の活字がおどっています。
 四国、九州の園芸は投機園芸の傾向が強いので、どうしても高価なものに走りがちです。趣味園芸の東京勢は指をくわえて、値が下がるのを我慢強く待つしかありません。
 誰にでもいいブームってないものでしょうかねえ。


2003/3/23
 米英などのイラクとの開戦を予見したのか、ことしはえびねの開花が大幅に遅れています。昨年は暖冬のせいもあって、室内に入れていたのは、20日過ぎには蕾が色づいたのもありました。
 それがことしはまだ、冬至芽がふくらんできただけで、蕾が見えているものは一つもありません。戦争が始まれば、しばらくはえびねよりTVの画面に釘付けでしょうから、慌てる必要はありません。
もちろん、えびねが人間の戦争のことなど考えるわけはないでしょうが、一年に一度の開花はせめて雑念なしに、ゆっくり見て欲しいに違いありません。

 暖冬の予想を裏切って、3月になっても寒さが厳しかったことは、考えようによっては、えびねのためによかったかもしれません。TV観戦もそうそう長くはつづかないでしょう。
 4月になれば、今度はえびねがマニアの目を釘付けにする番です。なにが幸いしたのか、ことしのえびねの出来は全般にいいようです。冬至芽も何時になく大きいのが目立ちます。
 夏が暑すぎ、冬が寒すぎた陽気が、花色にどんな影響をあたえるのか。めりはりがきいて、なんとなくこちらもいいのではないかという予感が私はしています。
 お宅のえびねはどうですか。Kさんのところでは「島紫香」が、親指を2本足したほどの太さの芽をあげているとびっくりしていました。花色への期待も大きいようです。
 えびねのボルテージがぐんぐん上るためにも、世の中、平和でなければいけません。


2003/3/16
 ことしの人気コンクールは盛大でした。出品数が昨年の27鉢を大幅に上回ってなんと46鉢。展示室が手狭に感じられて、うまく並べるのに嬉しい悲鳴をあげました。
 本命の中国春蘭から日本春蘭、朶々香、蓮弁蘭、さらには尢魔ワで出品されて、ちょっと広がりすぎた感はありましたが、大勢の方が参加してくれたことは、実にうれしいことでした。
 来年は今年以上のコンクールにしたいと、早くもない頭をしぼっています。賞品も今年以上の物を用意しようとか、トップ賞のほかに培養賞なども加えたらどうか、と夢をふくらませています。

 それともう一つ大きな収穫がありました。直接コンクールとは関係ありませんが、「月珮素」といっていい素心がみつかったことです。
 Hさんが参考にともって来てくれた3タイプの月珮素のうち、「松村月珮素」がなんともそれらしい風情で咲いていたことです。昨年も展示されてやはり感動したと、この欄で取り上げています。
 松村月珮はむかし、風の便りで老文団素だと聞き、日本には月珮素はないものと思っていました。亀谷月珮はどう見ても老文団素だし、松山月珮は大きいだけで、いま一つ訴えるものがありません。
 昨年は気がつかなかったのですが、松村月珮は喉にピンクをかける桃腮素でした。だから老文団素とは別物です。こんごこれを上回るものが出ない限り、月珮の本命と見ていいのではないでしょうか。
 蘭寶ャ史も桃腮素のことは何も触れていないし、桃腮素ではだめということもないのですから。


2003/3/9
 8日からウチョウランの水遣りがはじまりました。この日は私の誕生日で、それに合わせて水遣りを始めれば、うっかり忘れるなんてまずないとふんだからです。
 実際にはもう一、二週間遅い方が、陽気もよくなって芽だしが早く、何時まで経っても新芽が土をきってこないイライラは、少なくてすむのでしょうが、いまさら変更する気にもなりません。

 ウチョウランで一番頭が痛いのは、毎年一割前後が何故か消えてしまい、さらに一割前後が子供を作らないで、増えないままでいることです。
 ウチョウランを上手に作っている人の大半は、毎年球根をばらばらにして、新しい土で植え替えているようですが、これだと一つ大きな問題があります。

 私はウチョウランのよさは同じ花の株立ちにあると思うのですが、一度ばらばらにしてしまうと、いくらうまく寄せても、株の姿は不自然な形になってどうにも気に入りません。
 したがって、毎年植え替えることはしないのですが、そうすると役目を終えて腐った球根が、悪さをして全体をダメにしてしまう、とよくいわれます。でも、山では誰も植え替えてはくれません。

 鉢という制約の中で作るのですから、二、三年に一度は球根の塊を崩さずに、土を取り替えてやる必要はあるでしょうが、なんとか自然に増えた姿で大株に仕立てたいものです。
 これは74歳を迎えた男の挑戦だと、ちょっと大見得を切らせてもらいましょうか。

2003/3/2
 糖尿からの狭心症で、月に一度診てもらっている慈恵病院のO先生に、先日は一本とられてしまいました。2週間の入院で、三度の食事以外間食はしなくなったと自慢した時のことです。
 「間食は健康な人のはなし。糖尿病患者が口にするのは三度の食事だけです。これは常識ですよ。間食しなくたって飢えて死ぬことはないんだから」
 糖尿とはもう10年以上の付き合いなのに、今ごろこんな当たり前のことに気づくなんて、先生の澄んだ目にじっと見つめられて、思わず顔をふせてしまいました。

 病院での一日1800カロリーの食事で、インシュリン注射をはじめたら、血糖値は大急降下、逆に低血糖を心配するほどで、これならもっと早く注射すればよかった、と思ったほどでした。
 でも、退院して約一ヶ月、間食はしないけれど、血糖値はじりじりとあがってきています。少しずつ食事の量がふえているのですね。O先生にまたいわれそうです。
「腹いっぱいに食べていいのは健康な人のこと。糖尿病患者は決められたカロリーを守って、何時も腹八分目。これは常識ですよ」

 園芸の世界でも、忘れられている常識がごまんとあるのではないでしょうか。今月は植え替えの適期です。3年経ったものは新しい用土にしてやりましょう。見違えたようにリフレッシュします。
 そして、蘭は風と光と水で育てる、これが大原則です。肥料のやり過ぎはいけません。

2003/2/23
 中国で2000年8月に出版された「中国春蘭新品」を読んでいたら、これまで大きな間違いをしていたことに気がつきました。
 日本では中国春蘭の四天王は、梅弁花の「宋梅」「万字」「集円」と水仙弁の「竜字」ということになっていますが、中国では「万字」でなくて、水仙弁の「汪字」になっています。
 梅弁花2、水仙弁花2の割合もよく、「汪字」といえば、中国春蘭の中でももっとも古く、300年以上の歴史をもつ名花なので、説得力もあります。中国では四大天王と称しています。
 この四天王に対して、荷花弁では五大名荷があります。「緑雲」「大富貴」「寰球荷鼎」「端秀荷」それと「翠蓋」です。どちらもマニアにとっては欠かせないものばかりです。

 復興、発展の著しい中国では、国花である蘭への関心がこのところ急速に高まって、中国春蘭や一茎九華の日本からの逆輸入が始まっています。その影響で日本の相場も強含みになっています。
 もちろん新花の発見も多く、上記の本ではいい花がたくさん紹介されているのですが、まだ数も少なく、手に入れるのは至難の業なのでしょう。
 いきおい日本にある旧蘭が狙われるのは止むを得ないのですが、そのために値段が高くなりすぎるのは、安くなりすぎるのと同様に、困ったものです。
 せめて一花の方だけでも、九華の極端な上下動を真似ないで、ほどほどにいきたいものですね。


2003/2/16
 12日から春蘭展が始まっていますが、ことしは10日ほど早過ぎた感じです。昨年は逆で、早く咲いてもう満開に近い状態でした。自分の店だから気楽ですが、会場を借りたりしていたら大事でした。
 年明け早々に年間スケジュールをきめるのだから、止むを得ないとはいえるのですが、胃が痛くなる毎日がつづきます。お客様には誠に申し訳ないかぎりです。

 しかし、23日からの人気コンクールは、ことしは一番いいタイミングで開催できるのではないでしょうか。途中クマネズミによる被害で中断もありましたが、回もようやく重なってきました。
 出品してくださる人も増えてきました。手塩にかけた蘭を展示して、作り方、出来具合い、楽しみ方などを参考にして、松村謙三の「愛蘭同心」の仲間をひとりでも多くしたいのが私の夢です。
 蘭も作っていくと次第に自分の分身になってきます。3年から5年育てれば、これは誰の木か、かなりの確立でいい当てることができます。
 短気な人はなんとなくせかせかした木ができ、のんびりした人は木ものんびりしてきます。几帳面な人は隙がなく、だらしない人は不思議としまりのない木姿になるものです。

 人の振り見てわが振りなおせ、じゃあないですが、蘭を通して色々教えられ、得することもあるはずです。そう、人気1になれば欅窯の高価な蘭鉢だってもらえますからね。
 毎日楽しんで、出品して、一等になって、蘭鉢がもらえたら、いうことなしじゃあないですか。


2003/2/9
 ノーベル化学賞を受賞した田中さんは、薬品の配合を間違えたのがきっかけになった、ということでした。間違えていなければ素晴らしい栄誉はなかったかもしれません。
 ちょっとしたきっかけがその後に大きく作用することはよくあることのようです。ウイルスに悩まされて、えびねの商売を諦め掛けていた時もそうでした。

 近所のお爺さんがジエビネの鉢植えをもってきました。何年も前に多摩丘陵で見つけたもので、だいぶ増えていました。病気(ウイルス)は全く出ていませんでした。
 あまり日があたらないお爺さんの庭には、近所から頂いたシンビやデンドロが所狭しと置いてあるそうで、そんなところで作っているのに病気のびょの字も出ていないのです。
 「ウイルス対策は?」と聞いたら、驚いたことに「えっ、ウイルスってなんだね」という言葉が返ってきました。私の方は夜も眠れない日が続いているのに、これには開いた口がふさがりませんでした。
 私が感染と発病とは違う、キャリアーになっても発病させない作り方があるはずだ、と思ったのはそのときでした。お陰で今ではえびね作りを心から楽しめるようになりました。

 ところで、春蘭の水遣りでも、これはというきっかけを見付けました。HPをみていたら、ある人が時期によっては驚くほど水をやらない栽培法をすすめていました。
 何かひらめくものがありました。さっそくいろいろ実験してみようと思っています。乞ご期待。

2003/2/2
 豆弁蘭の掘り出し物を見つけてニコニコしたのは、去年の丁度いまごろでした。杭州寒蘭に勝るとも劣らない、限りなく究極に近い緑と白舌の花は、わたしの探し求めていたものでした。

 豆弁蘭は木姿がだらしなく、花茎もろくろっ首のように伸びすぎるものが多く、作りもいまひとつ気難しいと聞いていたのですが、私の株はどれも反対でした。
 1年作って、新芽も複数で順調に増え、葉姿もまずまずだし、買ったときは1花だった蕾も、今年は3花きています。いい花は増えにくいものが多く、価格も高止まりです。
 しかも、中国奥地の蘭をやっているマニアの中では、豆弁蘭はことのほか人気が高く、ベタ舌の「るびー」などは、1条の値段が三桁もしているそうです。
 二芸品、三芸品ともなれば高いのは仕方ないでしょうが、私の掘り出し物はリーズナブルな値段で出すことが出来そうです。

 掘り出し物といっても、私のは極ありふれた花です。ただ色合い、花形、バランスのよさなど、どれをとっても並花とはひと味違うと自負しています。
 名品とは二芸、三芸の希少性があることも大事でしょうが、ひと味違うありふれた花こそが、本当のあきない名品ではないでしょうか。
 2年目のことし、期待通りの花を咲かせてくれるかどうか。だいぶ遅れています。


2003/1/26
 新年早々スタートが2週も遅れて申し訳ありません。本来なら12日の日曜日から始める予定だったのですが、入院をいい口実に、サボらせてもらっちゃいました。
 どだい書くことが苦手で、新聞社時代も、取材するのは一向に平気なのですが、記事にするのは出来るだけ逃げ回っていたものです。

 それが白石さんの陰謀で、HPをやる破目になり(死ぬまでPCなんかいじるつもりはなかったのだけれど)気がついたら「今週の話題」と「朝昼晩」がいつの間にかわたしのノルマに。
 白石さんは、女の癖に(女性蔑視の傾向があってすみません)中国の歴史に強く、「杭州寒蘭なまえものがたり」なんていうのを自ら企画し、えっ、まだ続けられるの?と驚くほど頑張っています。
 私なら三回ともちません。勉強してない人間にはとても取り上げられないテーマです。雑文でお茶を濁すしかない己の惨めさったらありません。人間、つくづく勉強せなあかんと思い知らされています。

 さて、HPも気がついたら足掛け4年目。よくもまあ、図々しく恥をさらしてきたものだとあきれてしまうのですが、これもお金をかけずに、毎日アクセスしていただきたいための苦肉の策。
 お金をかけ、力のある逸材をそろえれば、すばらしいHPができるでしょうが、貧乏所帯のすずき園芸では、白石さんにおんぶに抱っこで、せいぜいこの程度しか出来ません。
 なんとかことしも頑張りますので、どうぞよろしくお願いします。


2002/12/29
 ことし最後の話題は、やはり杭州寒蘭で締めくくるのが適当のようです。
 何より嬉しかったのは、ことしは初花株で、いい花が多く咲いたことです。
 三年前からあるところを通して、中国本土から入れている株なのですが、それが黄業乾さん(杭州寒蘭をはじめて日本にもちこんだ人)の頃の株と、共通するものが多いのです。
 最近、中国のHPで分かったのですが、黄さんのものも私が入れたのも、どちらも杭州からそれほど遠くない、福建省の武夷山系のもののような気がします。

 杭州寒蘭の産地はいろいろあるようで、10年前の開店20周年頃から入れたものは、全体に少し濁りが出るものが多く、ちょっと食い足りない感じでした。
 濃色系のものも、「孤峰」や「下天竺山」のような薄墨色でなく、日本の寒蘭と同系の鳶紅色がほとんどで、濃くなると両者の差異が目立たなくなって面白くありませんでした。
 杭州寒蘭が注目されだしたいま、また昔のものと同じような株が入り始めたことは、大変結構なことで、再び情熱を燃やしだしたファンも少なくありません。

 中国でも、グリーンのよさと舌の白さ、さらに覆輪をかけた花を“水晶花”と称して、高く評価しだしているようです。武夷寒蘭のHPには、命名された良花がいくつもあって、私に笑いかけてきます。
 2003年は間違いなく中国に出掛ける年になることでしょう。名品を求めて。
 (どうぞよいお年をお迎えください。新年は12日よりスタートします)


2002/12/22
 杭州寒蘭がだいぶ人気になってきましたが、どうも上手に作れないという方が多いようです。先日も「うまく作れるなら、花がいいからやりたいのだが・・」という人が二人もきました。
 確かに作りづらいのは事実ですが、上手に作っている人がいるのも事実です。お客様から作に関しては、下手糞のレッテルを貼られているわたしですが、投げ出したいと思ったことはありません。
 「月娥」のように、何年経っても2条のままで、一向に増えてくれない株があることは確かですが、花は毎年のように咲いてくれます。
 これなどは、いってみれば例外中の例外で、商売人泣かせの木とでも言ったらいいのでしょうが、殆どの株は少しずつでも増えてくれます。

 杭州寒蘭が増えにくい最大の原因は、せっかちに小割されてしまうことにあるようです。これは培養25年の経験からの結論です。
 十分にエンジンがかかるまでは4条以下にしないことです。急がばまわれで、この鉄則を守っていたら今頃はウハウハしていたでしょうに、所詮金儲けには縁がなかったようです。
 1 風通し、2 やや明るめ、3 不精作りは禁物、4 水は辛めの方が安全、5 冬はマイナス気温を避ける、6 変だなと思ったらすぐ鉢を空けて確かめる―これを実行しましょう。
 木が出来たら、こんどは貴方好みの咲かせ方を工夫して、存分に堪能してください。


2002/12/15
 年末ともなると、色々のところから来年のカレンダーが集まってきます。先日は韓国春蘭の綺麗なカレンダーをお客様からいただきました。
 毎月四つ切大の写真で一点ずつ、12点が掲載されていて、うち7点が花物です。形のよい朱金花と二つの紅花、それと素舌が2点、複色花2点。
 どれも日本の春蘭と比べて、勝るとも劣らないものばかりです。あちらではいま、大変なブームのようで、一時の日本春蘭のような高値を呼んでいるそうです。
 ないものねだりをするこの世界ですから、なにも驚くことはありませんが、それにしても日本の現状と比べて、首を傾げたくなります。

 私のところでは「女雛」が蕾を数個つけて、こんどは本咲きしてくれそうです。世が世ならとても高価で手に入らなかった花ですが、いまはその気になれば楽に買えるようになりました。
 「女雛」だけではありません。「歌麿」だって「天心」だって「万寿」「光琳」など、どれもが欲しければ楽に買えます。安いからといって韓国春蘭に劣る花では絶対にありません。
 日本春蘭のファンにとっては、いまやまさにわが世の春のはずです。目にかなった株を手に入れて、あなたの「女雛」「天心」を早く咲かせてみてください。人気コンクールが待ってます。
 心配なのはこの夏が暑かったこと。みんな不作で、ひょっとすると値上がりがあるかも・・


2002/12/8
 慌てる乞食は貰いがすくない。日常よく使われることわざですが、杭州寒蘭の時期になると、この言葉をもぐもぐつぶやいて、苦笑いすることが多くなります。
 というのも、杭州寒蘭ほど咲き始めが魅力的な花も珍しいからです。「杭州寒蘭に駄花なし」とは、誰がいいだしたのか定かではありませんが、その通りだと思います。
 だが、それが落とし穴になります。慌てて約定済みにすると、後でしまったということになりかねません。日が経つにつれて、可愛い彼女の多くは変身してしまうからです。
 といって一日伸ばしにしていると、さっと横取りされて悔し涙を流す、てなこともあって、マニアにとっては落ち着かない日が続きます。

 この時期、毎日のようにお客様が、評価してほしいと、自慢の掘り出し物をもちこんできます。どれもよだれが出そうな花ばかりですが、10日も過ぎればただの花、になるのがほとんどです。
 一番安心なのは、もう評価が決まっているもので、自分の好きな花を集めることですが、これでは妙味がありません。誰にでも射幸心があります。大当たりといきたいものです。
 そこでヒント。開くのに時間がかかるほどいい花が咲く確率が高い、といっておきましょう。一日でパッと咲いてしまう花に、名品は殆どなかったと思います。
 私の店でトップの、サラサ素舌の「奔月」は、4日経ってもまだ4分咲きといったところです。

2002/12/1
 HPを開いてから3年が経ちました。当初は1年も続かないで、投げ出してしまうのではないか、とびくびくものでした。PCなんて死ぬまで縁がない、と思っていた私ですからなおさらです。
 それが、一週間に一度の「今週の話題」だけでもしんどいのに、しばらくしたら、「朝・昼・晩」の園芸店日誌までやりだして、どんどん深みにはまっていくではないですか。
 これでアクセスしてくれる人が少なかったら大ショックなので、はじめはアクセスカウントをしないことにしました。続けるファイトがなくなることを恐れたからです。

 ところが、昨年の12月にPCを新しくしたとき、白石さんがカウント表示するようにしてしまいました。驚いたことに、一日60から70人が見てくれているではないですか。もっとずっと少ないと思っていました。
 店では一日10人お客がきたら大変な賑わいで、昼飯をとる暇もないほどです。それが気軽に見られるHPとはいえ、70人もの人が毎日来てくれるなんて、信じられないほどの驚きでした。
 現金なもので、こうなると欲が出ます。PCへの考え方も違ってきます。お客様に実際に店に来ているような気持ちになってもらうにはと、ない頭をしぼりました。
 白石さんが考え出した「きょうのショット!」が、どうやらヒットしたようで、このごろは一日100人を越すような賑わいになってきました。こんなうれしいことはありません。
 これでお金がどんどん儲かってくれたらいうことなしなんですが・・そちらは誤算のようです。


2002/11/24
 ここに来て各地の紅葉便りが賑やかですが、東京では、私のところから車で30分もかからない、神宮絵画館前のイチョウ並木が気になります。
 イチョウですから紅葉ではなく黄葉ですが、数年前に偶然通りかかって、そのあまりの美しさに息を呑んだことがありました。

 以来すっかりファンになって、毎年出かけているのですが、同じような感動を味わったことは一度もありません。何かがいつも欠けているのです。
 艶があって、きらきら輝いていて、信じられないような生気があって、人の世でも、晩年こんな生き方が出来たらいいなあ、という黄葉は、簡単には見させてもらえないもののようです。 
 ことしはよさそうな予感がして、21日には三度目の見物にいきましたが、まだ少し早かったようです。タイミングがぴったり一致するのは難しいものですね。

 杭州寒蘭も同じです。途中までは順調だったのですが、10月中旬にアカダニが発生、それによる薬害で蕾が凝ってしまう被害に見舞われました。
 久しぶりに花芽をあげた「杏花村」がやられ、「昆明湖」「逸品」もひどく「黄玉山」も、うまく咲いてくれるかどうか。救いは「孤峰」「奔月」「秀水」「桃酔」「峨眉山」などが順調なことです。
 まだ少し早いですが、間もなく見ごろを迎えます。どうぞ見に来てください。


2002/11/17
 杭州寒蘭を扱いだしてもう25年になります。初めは咲いてみないとただの寒蘭と区別できなかったのが、10年も経つとひと目見ただけで、わかるようになってきました。
 ルーペのSさんのように、蕾をみただけで、青花、サラサ花、花形、舌の特徴まで、かなりの確率でわかる、とまではいきませんが、ただの寒蘭を杭州寒蘭と間違えることはあまりありません。
 杭州寒蘭の未開花株は、保証をつけて売る関係で、少しでも自信のないものは、中国寒蘭として安くだします。お客様は店主の目違いを期待して、これがけっこう人気の品物になっています。
 100%とまではいわないまでも、保証つきの株は99%の自信が、これまではありました。ところが今年は妙な事が二つ起こりました。

 一つは12年に入れたもので、花茎も細く濃緑で蕾の先は白く抜けて、どこから見ても杭州寒蘭そのものでした。だからすぐに常連の一人が押さえたのは言うまでもありません。
 どんな花になるかと、咲くまで作場に預からせて貰ったのですが、驚きました。いつの間にか黄色い舌の、ただの寒蘭に変身していたのです。
 いまひとつは昨年輸入したもの。根も太く、違うよという要素はどこにもみられませんでしたが、花があがってきたら、紅サラサの中国寒蘭(いい花でしたが)で、杭州寒蘭ではありませんでした。
 これは驕る者への警告でしょうか。人間、いくつになっても謙虚でなきゃいけませんね。


2002/11/10
 甘栗といえば誰もが知っている天津甘栗。だから天津はクリの大産地だとばかり思っていました。ところがさにあらず、産地は別の所で、天津ではクリはとれなくて、単なる出荷地なんだそうです。
 杭州寒蘭も浙江省の杭州が産地と考えやすいのですが、これも天津甘栗と同じで、杭州は集荷場所であって産地ではないといいます。

 では、どこが産地なのかというと、これがはっきりしませんでした。当初は浙江省の竜泉地区で採れるので、竜泉寒蘭と呼ぶべきだという意見がありました。
 昭和62年に出版された横山進一プロの写真集「東洋蘭の美」の中でも、わざわざ杭州(竜泉)寒蘭となっています。
 この本に前後して、竜泉地区の寒蘭を取り寄せたことがありますが、咲いたのは全部ただの寒蘭で、杭州寒蘭は一株もなかったように記憶しています。

 最近になって中国のHPから、福建省の武夷山系の寒蘭に関するレポートを教えられて調べたところ、間違いなく杭州寒蘭の産地(の一つ)であることが分かりました。
 普通の寒蘭と共生しているようですが、現地では寒蘭を「蘭の中の王」とまでいい、その中でも捧心に覆輪をかける杭州寒蘭を、高く買っている人々がいるのに驚きました。
 中国は春蘭万能と思っていましたが、ひょっとすると寒蘭に逆転する時が来るかもしれません。

2002/11/3
 寒蘭展の時期を読み違えて、お客様に大変迷惑をかけてしまった今年ですが、それにしても様子が変です。まるで寒蘭展などやっていないみたいなムードなのです。
 花が咲いていなければ出掛けても仕方ないわけですが、どうもそれだけが理由ではないようです。日本寒蘭そのものに魅力を感じなくなった節がみられます。

 というのも、杭州寒蘭はまだ先のはずなのに、マニアは毎日のように現れて、山採り株の出ない日はほとんどなく、名品の注文も入ってきています。
 流行りだしたものと落ち目になったものとの違い、といってしまえばそれまでですが、それにしても切なく、寂しい気持ちにさせられます。
 かつて3花つけてやっと開花にこぎつけた「豊雪」が、一千万円だといわれて、後光がさしているようにみえたのは、夢だったのかと疑いたくなります。

 いま私のところでは、お客様が増やした「豊雪」が、2花つけて手作りの鉢に入って、5万円以下で売られています。増えれば安くなるのは当然でも、いささか「豊雪」への冒涜のような気もします。
 「豊雪」は日本の自然が生んだ野生蘭の最高傑作です。それがもうまったく背伸びしないで買えるのですから、ほんとにいい世の中になったはずなのですが・・
 近い将来、寒蘭の人気コンクールを、この「豊雪」でやれたら―これが私の夢です。


2002/10/27
 杭州寒蘭の桃花と黄花は、まだ数えるほどしか選別されていません。素心はこの二、三年でかなり出回ってきましたが、はっきり黄花といえるのは「黄鶴楼」ぐらいでしょう。
 桃花も、私の知る限りでは、5本の指を必要としません。桃紅色の花は何度か見たことがありますが、桃花となると、マニアのHさんがもつ「桃渓」が第1号となるでしょう。
 残念なことに、Hさんは二年ほど前から、なぜかこの世界から姿を消してしまったので、数多くの名品とともに「桃渓」の安否が気遣われているところです。
 Hさんの話では、知り合いの愛培家から分けてもらったとのことでしたから、そこで増えているかもしれません。杭州寒蘭のためにはぜひそうあって欲しいものです。

 ところで、第2号がことし順調に花をあげてきました。一昨年につづいて見事なピンクで咲けば、高い評価をつけていいと思っています。
「桃渓」は、はじめはグリーンの蕾ですが、蕾が横を向く頃からカーキ色に変わり、さらにそこからピンクに変身していく芸をみせます。
 「桃酔」と命名した第2号も、蕾はいまのところグリーンです。一昨年はもう花が開いていたので分かりませんが、これからしばらくすると、「桃渓」と同じようにカーキ色になっていくはずです。
 もしそんな株を山採りの中で見つけたら、いいですか、黙って買いですよ。


2002/10/20
 10月に入ってから気温が25度以上の“真夏日”が10日以上も続いていたそうです。観測史上はじめてのことらしいですから、地球の気温が上っているのは間違いないようです。
 寒がりの人にとっては、遅くまで暖かければ暖かいほど、けっこうなお日和で、とニコニコ顔になるでしょうが、それなりに寒くならないと商売にならない我々には困ったことです。

 以前にも取り上げたことがありますが、気温が上ると寒蘭の咲く時期が遅れてくるそうです。これはむかし千葉蘭園の長野さんから、フィリッピンの寒蘭をわけてもらった時に聞いた話です。
 日本の寒蘭の咲く時期は11月中旬をピークに前後一ヶ月、台湾寒蘭が12月中旬がピーク、そしてフィリッピンのネグロス島にいくと、咲くのは2月になるのだそうです。
 この四分の一世紀少しずつ気温は上ってきていますから、花の咲く時期も少しずつ遅れがちになっている感じでしょうか。

 昨年はこの24日から寒蘭展をはじめて、タイミングのいいスタートがきれました。しかし、ことしはなぜか一週間早い16日初日と高い気温のダブルパンチで、散々な結果となってしまいました。
 9月中旬までは順調のようにみえたのですが、柳の下にドジョウは二匹いませんでした。デパートででもやっていたらそれこそ切腹ものでした。
 決められた日時のイベントに出品する方々の苦労が、はじめて身にしみています。


2002/10/13
 園芸商売を始めて今年で29年。未だに蘭の作り方で、こうすれば絶対という方法はみつかっていません。お客様の評価も「作りの方は決して上手とはいえない」が多数派のようです。
 そんな私がいうことですから、あまり真面目に取り上げられても困るのですが、ミミズのたわごとぐらいに、気楽に聞いてください。

 あくまでも経験論で、学問的に研究した結果などではありませんが、たまたまその植物が好む環境に置かれれば、誰が作ってもよくできるもののようです。
 園芸の上手な人は、そんな場所を見つけるのが本能的にうまいのでしょう。下手糞なわたしは、えびねでどれだけ回り道をしたことか。どれほどえびねを病気(ウイルス)にしたかわかりません。
 ここにきて、えびねはどうやらなんとかなってきましたが、まだまだなのが東洋蘭、特に杭州寒蘭がいま一つです。出来不出来のばらつきが大きすぎます。

 上手な人によれば、風通しのよいところで、小さめの楽鉢で、水は多い方がいいとのことですが、私の作場では、水は辛いほうが概していいようです。多いと後ろの根がやられやすい気がします。
 むかし千葉蘭園の台湾寒蘭が、葉がよじれるほど干されて、作られていたのを思い出しました。しかし、どれも根は真っ白でした。
 最近せっせと植え替えをして得た結論は、これからは辛めに作ろう、でした。


2002/10/6
 子供の頃の私は実に体の弱い子でした。校庭でちょっと長いこと立っているとめまいがして倒れ、少し食べ過ぎると腹痛を起こして学校を休む、なんてことがしょっちゅうでした。
 挙句の果ては、高校受験の浪人中にルンゲ(肺病)になり、大学を出る直前までスポーツとはまったく縁がなく、それがひょんなことにスポーツ紙に就職することになりました。
 家人はみな大反対。病気がぶり返すのが落ちだと心配してくれたのですが、どうしたわけか記者になった途端に別人のように丈夫になり、還暦を迎えるころまでは医者いらずでした。

 突如丈夫になるといえば、植物の世界も同じような気がします。増えないのが当たり前と思っていた杭州寒蘭が、なぜか変身して、見違えるように元気になった株が出てきています。
 新芽は確実に一年おき、それでいて古い葉はお構いなしに枯れこんでいくーこれが杭州寒蘭のパターンで、名品の殆どは今でもその生き方を変えようとしません。

 それが「峨眉山」が二年前から、「西湖」が三年前から急に“別人”になって増え始めました。なぜかは皆目見当がつきませんが、ひょっとすると第三、第四の株が出てくるかもと期待しています。
 15年前に歯科医のTさんが買った鹿児島・国見岳産の山採り小苗、花が咲くまでと預かって、毎年増えもせず枯れもせずしていたのが、これもことし急にエンジンがかかってきました。
 Tさんが来るたびに伏目がちだった私も、ようやく顔を上げて元気になりました。


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