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           6 (2002/4/7〜2002/9/29)
2002/9/29
 期待以上の杭州寒蘭が入って、すっかりご機嫌になっていたら、今度はやりきれない出来事で、浮かれた気分は素っ飛んでしまいました。
 異常な夏の暑さを耐え抜いて、元気にしているウチョウランが、このところ2、3鉢ずつなくなって(盗まれて)いるのです。

 外から手を伸ばせば取れるところに置いてあるので、「これじゃあ、とってください」といわんばかりだから、盗まれて当然と人はいいます。
 私もそんなところに置く方が悪いとは思いますが、2度、3度、4度となると腹がたってきます。一度目は「やはりやられたか」で済みましたが、度重なるとこん畜生てな気分になります。
 2、3年前にも、中国春蘭をフレームから外に出して、雨に当てて作っていたら、週単位で少しずつ盗まれたことがあります。だんだん大胆になって、合計で20鉢ほど被害に遭いました。
 春蘭の方が、柵の中に入って盗らなければいけないので悪質ですが、手を伸ばしたところにあるからといって、盗っていいなんてことはありません。

 どちらも同じ人が盗みを重ねているのだと思います。始めは緊張のあまり体ががくがく震えるそうですが、慣れると快感に変わってくると、かつて経験者から聞いたことがあります。
 ああ、石川や浜の真砂は尽きるとも世にぬすびとの種は尽きまじ、か。いい加減にしてよ。

2002/9/22
 今度ばかりは大当たりでした。ニコニコしています。杭州寒蘭を今年も入れたのですが、思わず口元がゆるんでしまうほど、株がいいのです。
 これまで中国には二度も騙されていました。こんども多くは期待していませんでした。それがどうでしょう。まさに三度目の正直で、どんと自信を持って商売できる株が、ぞくぞくでてきたのです。

 第一に殆どの株が花芽付きです。それも5pから10pぐらいだから、輸送傷みがまったくない状態でした。恐らく9割以上が花を見ることが出来るでしょう。
 仲介の商社の人が、タイミングよく手荷物で運んでくれたので、心配した根の水切れもありませんでした。半分以上が枯れるか、がくんと作落ちしたこれまでとは雲泥の違いです。
 もちろん杭州寒蘭ではないものも、何割かはまじっていたし、根の状態がばっさり切ってあってよくないのもありますが、生きのよさが昨年までとはまるっきり違う、といえるでしょう。

 だから今回は自信をもってお薦めします。あなたが杭州寒蘭をやってみようかな、と考えていらっしゃるなら、保証付きの今回の株をやってみてはいかがでしょうか。
 名品や選別株は、まだまだ品不足で高価です。山採り品は宝くじを買うようなものですが、杭州寒蘭に駄花はありません。少なくとも咲き始めは、日本の寒蘭とひと味もふた味も違います。
 花付き株(2芽から4芽)は1芽2,500円、花なし株1芽2,000円です。メールで早めにご注文を!

2002/9/15
 えびねの株分けが始まっていますが、いま毎度悩んでいるのが、どの鉢を使うかです。いいえびねはやはりいい鉢に入れてやりたいのですが、ひとつ大きな問題があります。
 ご存知のように、わたしたちは、えびねのウイルス対策で、どぶ漬け栽培法を考案しました。ニオイ、コオズは特に効果的で、成長もよく、ウイルスなんて怖くない、と自信をもっています。

 ところが、ひとつ問題があるのです。鉢にカルキの染みがついて、せっかくのいい鉢がだいなしになってしまうことです。仕方なくいまはプラ鉢を使っていますが、これは私の主義に反します。
 このところお客様から、えびね鉢も少しは置いて欲しいといわれて、少々慌てています。どぶ漬け法に代わって、鉢が生かせる作り方の確立が急務です。

 そんなとき、ある人から「えびねは風さえ四六時中送っていてやれば、ウイルスにかかる心配はまったくない」といわれました。
 気温が20度を越すと、扇風機を回しっぱなしにする。そのせいで、時々水切れを起こすこともあるが、えびねは水切れにも強いよ、というのです。
 正直な話、私は半信半疑です。でも、これが本当なら大変な朗報です。欅やぶな窯にどんどんえびね鉢を頼めるし、お客様にも鉢を図々しく強要する気になります。
 もちろんもう、いいえびねをいい鉢にいれて、実験をはじめています。乞ご期待。


2002/9/8
 食品業界の不正の発覚は、さらに飛び火して、商社のリベート問題、電力会社の原子力発電所の故障隠蔽事件と広がって、世の中なにもかもおかしなムードになっています。
 いったい何を信じて生きていけばいいのか、気の弱い私などはただおろおろするばかりです。そこにこんどは世界同時株安。お涙程度の株しかもってないのに、限りない不安にかられています。

 マイナスばかりの話の中で、最近大いに考えさせられる出来事がありました。東京の表参道にオープンしたフランスの高級ブランド店ルイ・ヴィトンに、徹夜組も含めて1500人が押しかけたことです。
 いまや安売りのユニクロも、落ち目の三度笠だというデフレの中で、ルイ・ヴィトンというだけで、類似品の5倍も10倍も高価なものに行列ができるのだから、世の中どうなっているのでしょうか。
 物が売れないときは、いくら値段を下げても効果はえられない。消費者がどうしても欲しいものを提供することだ、とよくいわれますが、その欲しいものがなかなか見えないのが現実でしょう。
 それがルイ・ヴィトンでは、一人一品かぎりという丸っきりの売り手市場で、飛ぶように売れていくのだそうですから、傍目にも羨ましいかぎりな話です。

 園芸の世界でも、ウチョウラン・ブームのはしりの時がそうでした。えびねでも寒蘭でも、売り手市場の黄金時代は大変でした。それに老舗の信用が加わったらいうことなしでした。
 さて、これからの主役は何でしょうか。私は杭州寒蘭にその夢を賭けているのですが、どうでしょうか。


2002/9/1
 邱永漢さんのHP「もしもしQさんQさんよ」が、こんど新たに独立して「ハイハイQさんQさんデス」でスタートしました。大変に面白く、最近はこれを見ないと一日が始まらない感じです。
 邱さんがHPをはじめたのは、こちらと大差なく、もうかれこれ3年になるそうです。その間殆ど毎日のように更新して、見るものを飽きさせず、これからも毎日つづけるというのですから驚きです。

 私の方は毎週一度の「今週の話題」も、最近はネタ切れで青息吐息だというのに、なんという違いでしょうか。相手はスーパーマンなのだから、どだい比較する方が間違い、てなもんですね。
 私が「今週の話題」をはじめたのは、園芸を楽しむ多くの人たちと、気軽に対話したかったからです。それと私の園芸への考え方(大袈裟かな)を、なんとなく分かってほしかったのです。

 蘭は高価なものが多いです。それだけに、なによりも信頼関係が大事です。昔から「蘭を買うというより、それを扱うあんた(店の主人)を買うのだ」と、よくいわれたものです。
 私たちは雪印だから安心して牛乳を飲みました。日本ハムだから安心して肉をたべました。それがどうでしょう。地に落ちた栄光は簡単には取り戻せません。命取りになることもあります。
 ちっぽけなすずき園芸ですが、杭州寒蘭を筆頭に、えびねでも東洋蘭でもウチョウランでも、すずき園芸だから安心して買えるーそんな風になりたいものです。
 邱永漢さんの爪の垢でも煎じて、これからも、がんばれ!がんばれ!です。

2002/8/25
 9月の4日から恒例の蘭鉢展示会がはじまります。欅窯の三橋さんをはじめ、ぶな窯の五百澤さん、八起窯の塚本君が腕を振るいます。
 3月にロンドンで開かれた英国王立園芸協会主催のラン展で、日本人としてははじめての最高栄誉賞をもらった三橋さんが、どんな自信作を飾ってくれるか、いまから楽しみです。

 三橋さんの弟子だけれど、ユニークな作風の五百澤さん。今回は寒蘭鉢にこだわらず、えびね、春蘭鉢と幅を広げて、自由奔放に作ってもらいました。
 真摯な人柄の作品には、訴えてくるなにかがあるようで、このところ注目するお客様がふえてきました。作品の到着が待たれます。
 八起窯も3度目の挑戦とあって、焼き締め寒蘭鉢にひと味違った進境をみせるか。杭州寒蘭の花芽もぽつぽつあがってくるので、期待が高まっています。

 それと、わくわくするのが古鉢ガラクタ市。ことしからの初めての試みで、お客様の手持ちのものを展示即売させてもらいます。値段は放出するお客様が自由につけます。
 高いのもあるでしょうが、安い掘り出し物もでるはずです。そこがおもしろい。良縁にめぐまれるよう、出来る限り鉢の履歴もつけて、展示したいと考えています。
 鉢を選ぶーこれは園芸の基本の一つだと思うのですが、どうでしょうか。

2002/8/18
 私のPCの壁紙は、2年前からずっと杭州寒蘭の「奔月」です。青サラサ素舌の覆輪花で、その年初めてこの花が咲いたときの感動は、いまでも、壁紙を他のものに変える気にはさせません。
 上海植物園の沈雪宝さんが命名した杭州寒蘭ということで、手に入れたのですが、まさかこんな素晴らしい花が咲くとは思ってもいませんでした。
 中国では寒蘭は評価が低く、蘭の仲間には入れてもらえず、草扱いだと聞いていたので、そんな蘭に名前がつけてあるのが不思議でした。

 でも、咲いた花をみたら納得しました。蘭を国の花にしている中国の目はさすがで、草扱いの寒蘭でも、これはというものはちゃんと選別してあったわけです。
 その「奔月」ことしは新芽を二つあげて「やったー」と大喜びしていました。昨年の11月末には2枚葉の古木にもハサミを入れていたので、うまくいけば笑いが止まらないところでした。

 ところがどうでしょう。18日現在、新芽二つの1本は3枚葉で8センチになっていますが、後の1本は2センチのところで、成長を止めたままです。
 古木吹かしの方も、2枚葉に少し枯れこみはきましたが、当たりはまだまったく見えてきません。うまくすれば、ことしは二人のマニアに分けられるかという皮算用は、どうやらパーのようです。
 「孤峰」に新芽が3本きたなんて人もいるのに、私の方は金儲けには縁がないようです。


2002/8/11
 二週間ほどかけてウクライナを旅してきました。それもドニエープル河を、河口から首都のキエフまで、数泊して船旅を楽しむものでした。
 途中ドイツ製と聞いていた船のクーラーが故障して(実は東ドイツ製でした)大汗をかかされるハプニングもありましたが、はじめてみるウクライナは驚きの連続でした。

 遠く霞む両岸、満々と湛えた水量は、これが河かと信じがたく、驚いた事に堤防らしきものは、ほとんどみられなかったことです。
 両岸は葦が生え、コウホネが黄色い花を咲かせ、その向こうはそう大きくもない楡とかプラタナスがあり、さらにその向こうは、果てしなく続く畑、畑、畑・・
 町が近づけば別ですが、何時見ても同じ光景が延々とつづくのです。ヨーロッパの穀倉地帯といわれるだけのことはありました。

 過去抑圧された歴史が殆どのウクライナは、まだまだ後進国ですか、ドニエープルが生んでくれる肥沃な土地は、これからもウクライナの大きな武器になることでしょう。
 それにひきかえ、日本の農業政策はどうなんでしょうか。経済大国を自負して、足りないものは輸入すればいいと、安易になりすぎてはいないでしょうか。
 終戦後の食料不足で、農家への買出しに、母が苦労していたのをふと思い出したことでした。


2002/7/21
 くさいものには蓋をしてなるべく避けて通る、といった傾向が、えびねのウイルス問題でも強く感じられます。よく分からないのだから、触らぬ神に祟りなしと決め込むのが賢明なのでしょう。
 しかし「ニオイエビネに魅せられて」というHPを立ち上げている大橋さんが、最近ウイルスの事にもふれています。大いに悩み、苦しみ、テストしてきた結果をフランクに公開しています。
 私も試行錯誤を繰り返しながら、大橋さんと似たような実験をやり、同じような経験をしています。株分けしたえびねの片方にはでて、もう一方が健全だったことも何度かあります。

 えびねのウイルスはいま10種類ほど分かっているようです。感染させないにこしたことはありませんが、無菌室にでも入れない限り、遅かれ早かれ感染するのは避けられないことでしょう。
 問題はエイズのように、感染したら必ず発病するウイルスがあるのかどうか、もしあるとすれば、えびねのために、ただ涙を流してやるほかありません。

 でも、これまでの色々な経験と実績から、感染即発病ということはなく、キャリアーになっても、管理次第で発病を長い間、抑えられそうな気が私はしています。
 確かに毎年数%の割合で、まだ病気の株はでていますが、えびねはもうやっていられない、という状況ではまったくありません。作場によっては、病気知らずで楽しんでいる人もいるのです。
 こうすればウイルスなんて怖くない―そんな管理法、どなたか分かっていたら教えてください!

 都合により7月28日と8月4日は休ませていただきます。


2002/7/14
 エコロジーというのですか、地球にやさしくということで、このごろは自然破壊は悪の権化みたいにいわれますが、台風のもたらす被害は、毎年どれだけの人を泣かせていることか。それこそ悪の張本人といっていいでしょう。
 もしその方向を自在に変えられる方法を開発できたら、毎年失われていく富が丸々浮いてしまうのですから、アフガニスタンやパレスチナの一つや二つ丸抱えで面倒もみてやれるし、世の中から戦争なんて言葉もなくなるに違いありません。

 それはともかく、開店以来、私は台風と殆ど無縁でした。浸水の心配はまったくなく、南側にある母屋が防壁になって、風の被害も殆ど受けません。だからこんども多寡をくくって、対策らしいことは何もしませんでした。
 ところが、朝出てきたら換気扇も扇風機も攪拌扇もとまっていて、電気もつきません。大慌てで町の電気屋さんを呼んだら、漏電でブレーカーがとんでいました。そういえば、ここ一二年東電の方からチェックされていたのを、ブレーカーだけつけてお茶をにごしていました。

 犯人は20年前につけた庭園灯の漏電とわかりましたが、あれやこれやと不備なところがでてきて、とどのつまりは、庭園灯もすっかり取り替える破目に。工事はかれこれ丸一日かかり、間違いなく開店以来最大の被害となった台風6号でした。

2002/7/7
 ことしも一年の半分が過ぎてもう一週間になります。年を重ねるごとに、一年がどんどん短くなって、文字通り、光陰矢のごとしを実感させられます。
 春蘭展、えびね展、ウチョウラン展と、どれも温暖化の影響で、実質前倒しの開催となり、殆ど休む間もなくここまで来てしまった気がします。
 ことしは典型的な梅雨で、いまのところ助かっていますが、梅雨明け後はどうでしょうか。既にヨーロッパの方からは、記録的な暑さのニュースが伝えられています。
 日本だけ例外で快適な夏が楽しめるなんて事はありえないでしょう。7、8月をいかに気持ちよく乗り越えるか、これが問題です。

 幸い次の展示会は9月の蘭鉢展で、それまでの二ヶ月は、後半戦への充電期間になります。人間だけではありません。杭州寒蘭もえびねも同じ事です。
 7、8月は園芸も夏休みなどと、のんきな事を言っていると痛い目にあいます。実際には一番神経を使う勝負どころが、この時期ではないでしょうか。
 秋風が立つと急に株がおかしくなった、と慌てる人のほとんどは、夏の管理の怠慢さに気がついていません。いつも身近にいて、植物に声をかけてやらなければいけないのがこの時期なのです。
 園芸の成果は夏に決まる―これは決して過言ではない、と私は思っています。

2002/6/30
 ウチョウランもそろそろ終幕を迎えて、これから秋の寒蘭まで夏枯れの時期が続きます。今年も多分すごいだろう梅雨明けの猛暑を考えると、園芸も一休みしたいところかもしれません。

 そんな心境のみなさんに、あえて薦めたいのが夏咲きえびねです。春咲きのように、殆ど一斉に咲いて、惜しまれてはかなく散っていくのと違って、万事が控えめというか悠長です。
 花があがる時期も7月から8月にかけてばらばらだし、咲いている期間も約二ヶ月と長いのが、かえって有難みを薄めているようにも思えます。

 いまひとつの欠点はカクチョウランさび病にかかりやすいことです。夏日で湿度が高いとでやすく、せっかくの蕾が黒くなって、咲かないまま落ちてしまいます。
 むかしは一週間に一度は消毒したり、管理が大変でしたが、数年前あまりの暑さにクーラーをがんがん効かせた部屋に飾ったら、さび病がぴたりとでなくなりました。
 偶然の発見だったのですが、気温と湿度が下がると、増殖が抑えられてしまうようで、花は最後の一輪まで咲いてくれます。

 春咲きの葉数は2枚ないし3枚がほとんどですが、夏咲きは倍もあって、寝ることのない立葉で、見応えがあります。特に斑入りともなれば、春咲きの及ぶところではありません。
 どうです、クーラーの効いた部屋で、夏咲きえびねの鑑賞と洒落こんでみてはいかがですか。


2002/6/23
 数年前、品川に住むSさんから、富貴蘭の「金広錦」の立派な株を2鉢もいただきました。並みのフウランはやっていても、当時、富貴蘭はまったく扱っていない私でした。
 「ありがとう」と大して感謝もせずにもらってしまったのですが、あとで1鉢10万円では買えないものだと聞かされて、あわてたことでした。
 人間だれでもそうでしょうが、高価だと聞かされると大事にします。私も例外ではなく、それから2年ほどは真面目に管理しました。お陰でよく増えもしてくれました。

 ところが、柄が荒れるのです。縞物の常らしいのですが、紺覆輪や覆輪がでることはまずなく、源平になったり、柄が落ちてしまったりで、がっかりすることばかりでした。
 私が富貴蘭をやらない理由の一つは、柄が安定しないものが多いことにあります。富貴蘭をやる人は、そこが面白いというのですが、わたしにはどうもわかりません。
 嫌気がさすと管理もいいかげんになります。せっかくの「金広錦」も、ことしは枯死寸前まで落としてしまいました。いやはや話になりません。
 今年の美術品評全国大会で、内閣総理大臣賞をとったのは、高級品種とはいえない「青王錦」だったと聞きました。かけた長い歳月と変わらぬ愛情が、高級品を押さえ込んだとのことでした。
 脱帽です。私も気分を一新して「金広錦」を、あらためて末永く可愛がっていこうと思います。

2002/6/16
 杭州寒蘭の新芽がようやく出揃ってきました。お客様のところでは、5月のうちから、もう新芽がでてきたとか、花芽まで上ったなんて話を聞いて、やきもきしていたのですが、これでひと安心です。
 だいたい私のところは、5月に新芽が土を切ってくることはほとんどなく、6月と相場は決まっています。理由は、花時に目一杯咲かせてしまうからだというのが、お客様の一致した見解のようです。
 むかし、一番下の花が一輪開くと「よかよか」といって、花茎を切ってしまう変わったお客様がいましたが、商売となるとそうはいきません。

 欲のためにこき使われている当店の蘭ですが、ことしも大方がけな気に新芽をあげてくれています。「孤峰」「峨眉山」「黄玉山」「西湖」は、特に勢いがよく、また稼いでくれそうです。
 これらの木は、新芽がでるのは一年おきが普通だったのですが、ここ一、二年は毎年きています。5条立ちぐらいになるまで、割らないでがまんすると、増えはいいようですね。
 そんな事は昔から分かっていたのですが、お客様からなんとかしてといわれれば、人の良さと欲が絡んで、ぎりぎりまでむしりとられてきたのが「満月」や「三潭印月」「侘助」です。
 昨年3条で残した「侘助」は、新芽が上らないまま後ろが落ちていま2条。先芽止まり2条の「満月」「三潭印月」は、当然あがっていい新芽がまだ見えません。
 無言の抗議でしょうか。ごめん、ごめん。ことしからは宗旨をかえて、無欲でいきまーす。


2002/6/9
 人気コンクールを春蘭だけでなく、ウチョウランにもひろげたい、と考えているのですが、簡単そうで、いろいろ問題があります。

 まず第一に、ウチョウランのよさは、同じ花の株立ちにあるので、コンクールの条件としては、最低5、6本はないとさまになりません。
 ところが、1本のウチョウランが5、6本になるには、早くて2年、下手をすると4年かかります。その間、コンスタントな管理ができればいいのですが、そうは問屋が卸しません。
 特に最近の実生ものは、3、4年目に突如消えてしまう癖があったり、一向に増えてくれず、毎年1本のままだったりで、思うに任せません。

 ウチョウランは毎年植え替えろ、そうすれば球根が太ると、ものの本には書いてありますが、植え替えれば球根がばらばらになって、つぎに花が咲いたとき、自然の株立ちの感じがでません。
 球根を横にして、大小のイモを適当に混ぜて、芽の先を集めて植えれば、なんとか格好はつくという人もいますが、自然に増殖した姿にはかないません。
 かくなるうえは、毎年植え替えてイモを太らせ、展示会に出品する前の1年だけ、一切いじらないで作るのはどうかなどと、姑息な事を考えたりしているのですが・・。
 なにはともあれ、早く人気コンクールがやれるような、いい知恵はありませんか。


2002/6/2
 「趣味の山野草」の6月号を手にして驚きました。時期が時期だけに、広告の殆どがウチョウランなのは当然として、そこに掲載されている写真は、奇形花のオンパレードでした。
 かぶと咲き、獅子咲き、蝶咲き、子宝咲き、八重咲き・・変わっていれば変わっているほど大騒ぎで、所によっては、ことしは奇形、斑入りと銘打った展示会までやるようです。
 ウチョウランというのは、奇形の花が実は当たり前で、当たり前の花が奇形なのかな、と錯覚してしまいそうな、最近の奇花ブームです。

 だいたい奇花を好む人は、一般には10人のうち2人らしいです。科学的根拠のほどは知りませんが、まあそんなところだろうと私も思います。
 2人にとっては堪らない魅力で、いくらお金を出しても手に入れたい。そこで足元を見られ、高値で取引されるのですが、2人が持ってしまうと、価格はがた落ちになってしまいます。

 そんなことを考えると、この奇花ブームもそう長くは続かないような気がします。まともな花の中に、ほんのわずか奇花があるから、奇花の存在価値があるのではないでしょうか。
 天然ものでも、人工交配ものでも、誰が見てもきれいな花が名花でしょう。そんな花を株立ちにして楽しむのが、ウチョウランの本当の楽しみ方ではないでしょうか。


2002/5/26
 5月は新緑がきれいな時期ですが、なかでもえびねの新葉は格別です。えびねの学名カランセは、ラテン語で美しい花の意味ですが、花が終わったあとの新葉の魅力も、また忘れることはできません。
 恐らくえびねファンなら、最も美しい葉のトップに、この時期のえびねを挙げるに違いありません。特に、夜の白熱灯の下で見るえびねの葉は、思わず息をのみます。
 昼間の疲れも、むしゃくしゃした気分も、何もかもぱあーっと素っ飛んでしまい、精神衛生上でこれほど効果的なものはない、と私は思っています。
 店を閉めて、我が家に戻って、夕飯を食べて、さて、食後の一休みがえびね小屋です。「お帰り」と嬉々として迎えてくれるえびねたち。
 わたしは挨拶代わりに、水をたっぷりやり、新葉にもさっとかけてやります。その時のえびねの輝いた表情は、言葉では言い尽くせぬ素晴らしさです。

 そんな素敵なえびねに、ことしは無常にも、バイラスの波があちこちで押し寄せているようです。私のところでも、例年より多い被害を受けました。
 急速な地球温暖化がその大きな要因だと思うのですが、被害を受けたAさんやHさんに、こうすれば絶対に大丈夫という培養法を、早く見つけだしたいものです。
 バイラスの心配がなくなれば、えびねファンの倍増はあっという間でしょう。


2002/5/19
 28年前、園芸店を始めるに当たって、私は10坪ほどの小さな二階建ての店舗をつくりました。開店を前に、卸売り市場の社長が見に来てくれていったのでした。
 「こんな喫茶店でもやれるような店を作ってどうするの?鉢物は地べたに並べるだけで商売になるんだから」
 投下資本は出来るだけ少なくして商売を始めろ、と社長は言いたかったのですが、私は店舗を作ったのを間違っていたとは思っていません。

 えびねをはじめ、年に5回の展示会を、自分の店でまかなえるし、お客様とゆっくり歓談することもできます。
 よりよく飾ってやることは植物も同じです。ロンドンのラン展で三橋さんがみせたものは、まさにそれでした。花だけを見るものと思っていたロンドンっ子にとっては、驚きであり衝撃だったでしょう。
 「鉢は蘭の住みかなり」と蘭華譜にもあります。これが昔からの日本の園芸のありかたでした。いまそれは、ともすると安易な方向に流れ気味です。

 ここらで三橋さんにもうひと奮発してもらう必要がありそうです。日本古来の園芸文化を世界の人々に見せることで、逆に日本の古典園芸に活を入れてほしいものです。
 だれだって、いいものはそれなりの入れ物に入れてやりたい、そうじゃあないですか。


2002/5/12
 三橋俊治さんの受賞を祝う会が26日に行われます。3月にロンドンで開かれた英国王立園芸協会主催のラン展で、フウランなどを植え込んだ自作の鉢が最高栄誉賞をもらったお祝いです。
 このラン展は今年で52回にもなる、伝統のあるフェスティバルで、過去この賞をもらったのは、三橋さんを入れてたったの4人だけだそうです。もちろん日本人では初めての快挙とのことでした。
 そういわれても、はじめのうちはピンとこず、軽く受け止めていたのですが、時間が経つにつれて、どうやら大変な賞をもらったらしい、と思い始めています。

 三橋さんの鉢に惚れ、毎年展示即売会を開いて、ファンを増やしてきた私にとっては、三橋さんの鉢がワールドワイドになったことで、ちと鼻も高くなった気がします。
 それはともかく、祝賀会には一つの楽しみがあります。昨年、三橋さんを励ます会で、くじ引きがあり、いわくつきの透かし富貴蘭鉢が当たって、みんなを羨ましがらせました。

 こんどもどうやら同じような企画があるらしいので、二匹目のどじょうを狙っています。当日は先約があって、出席できない場合を考えて、とりあえず白石さんには出てもらうことにしています。
 三橋さんが名を挙げて、世界の三橋になれば、私のコレクションも価値があがるし、毎年これはといった、出来の良いものを求め続けてきたファンのお客様も、大満足されることでしょう。
 祝賀会が盛大に行われ、わたしに再び幸運が舞い込むことを、心から祈っています。


2002/5/5
 ぱっと咲いてぱっと散ってしまったー今年のエビネはそんな印象でした。開花が異常に早かっただけに、桜の花と同じように、短く感じたのかもしれません。
 毎年えびねのフィナーレを飾る「相牟田紅」は、ことし花が休んでしまいましたが、代役をコオズの「端午」が果たしてくれています。
 むかし、新島の山採りの中から出た兜咲きの紫花で、私の中学の先輩が、5月の節句にちなんで「端午」と命名したのでした。

 一時は大変な人気になりましたが、人工交配がはやりだして、今は落ち目の三度笠です。兜咲きは遺伝形質が強く、F1でたくさん作れるのが災いしました。
 人工交配といえば、えびねの楽しみ方をいま二分しています。天然ものに少ない梅弁花、濃色花を限りなく追求していく人たちと、逆に天然ものに固執する人たちです。

 人間って勝手なもので、梅弁花や濃色花をこれでもかこれでもかと見せられると、細弁の花がほしくなります。濃いだけが花じゃあねえよともいいたくなります。
 でも、そのときの気分で、交配ものであろうと天然ものであろうと、いいものはいいのだから、変にどちらかに頑なになることはないと思うのです。
 それなのに矛盾したことに、天然ものに拘っている私です。「端午」もその一つです。


2002/4/28
 えびねの展示会が始まったばかりだというのに、花のほうはもう終わりに近く、どうやってゴールデン・ウイークの間もたせようかと、頭を悩ませています。
 なにげなく昨年の「今週の話題」を読み返していたら、きょう書きたいと思っていたことが、一字一句違わない感じででているのには驚きました。ちょっと引用すると・・
 ・・展示会が始まるときに、もう花が終わってきているなんてことは、商売を始めて27年になるが初めてのことです。

 えびねもこの暑さには戸惑ったに違いありません。例年に無く病気(バイラス)の株がでています。どぶ漬け法をはじめてからは、病気の発生は5%前後だったのがことしは10%近くになっています。
 管理に手抜きは無かったと思うので、原因は外部環境の変化でしょう。えびねにとっては厳しい地球環境がつづきます。でも、何とか知恵を絞って美しいえびねを残していきたいものです・・
 ざっとこうです。ことしは昨年より一週間会期を早めたのに、まだ花のほうが早すぎたなんて、異常も異常です。地球温暖化のペースが想像以上にスピード化しているのでしょうか。

 どんな対策をとったらいいのか。とりあえずは扇風機を増やすか、冷風扇を取り付けて、防衛線を張るぐらいしか思い当たりません。
 どなたかいい知恵があったら教えてください。
 
2002/4/21
 高山性のキソエビネやキンセイラン、それにサルメンエビネは、東京では作るのが難しいえびねですが、それについで作りづらいのがニオイエビネです。
 むかし、「端午」というニオイ系の花が、九州のえびね業者の目に止まって、小さな当歳苗を何人かがもっていったのですが、殆どがうまくいかないで投げ出してしまいました。
 ヒゼン、ヒゴ、サツマは、まるで魔術師のように、よく増やして上手に作るのですが、ニオイはまったく勝手が違ったようです。

 霧島園の園主・内村さんに言わせると、うまくいかないのは、ヒゼン、ヒゴ、サツマを培養する明るさで栽培するからだそうです。ニオイは暗く作れ、がモットーだといいます。
 先日伺った霧島園の作場は、本当に暗いといった印象でした。驚いたことに、しばらくして薄日がさしてきたら、内村さんは早速、天井の日除けのダイオネットをおろしていました。
 展示されていたニオイエビネは、どれもこれも見事なつくりで、のびのびと、おおらかに仕上がっていました。葉の艶も驚くほどでした。

 嘗ては、ニオイなんかえびねじゃない、と馬鹿にしていた四国、九州のえびね党も、いまやニオイでなければえびねでない、といったムードに変わってきているようです。
 ピンク花の「霧静香」ことしは絶品も絶品でした。


2002/4/14
 どんどん咲いてくるえびねに追いまくられ、ゆとりがなくなっているこのごろなので、ここはチェンジ・オブ・ペースの話題をとりあげました。

 ニオイエビネで私の好きな花に「金井酔白」というのがあります。酔白とは、白に近いけれども、ほんのり色を染めている状態をいい、花にはこの言葉が良く使われます。
 戦後、世の中が落ち着いてきて、いち早くえびねマニアになった歯科医の金井さんが、大変気に入っている花で、時期になると奥様と一緒にこられて、私の店に飾ってくれたものでした。
 ある年泥棒が入って、私のめぼしいえびねは、あらかた盗られてしまったのですが、金井さんの酔白は、幸いにも無事で、私は胸をなでおろしていました。

 ところが、金井さんは大変複雑な顔なのです。被害に遭わなかったことは目出度しなのですが、泥棒が、盗む価値なしとみたのが、どうにも腹が立つし、気に入らないというわけです。
 えびねのオールド・ファンなら、その話聞いたことがあるよ、と微笑まれることでしょう。花の良さが分かる人で、「青嵐」「せせらぎ」「草笛」など、実に味があるものを見つけ出しています。
 金井さんのプライドが大きく傷つけられた「金井酔白」が今年も見ごろです。まだ本咲きとまではいきませんが、長くご病気の金井さんのためにも、立派な株に育てなければと思っています。
   
2002/4/7
 
すみません。今回は時間が無くて、体調のこともあって、一週休ませてもらいます。来週からまた頑張りますので、よろしくどうぞ。

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えびねと東洋蘭の店 すずき園芸