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           4 (2001/4/1〜9/30)
2001/9/30
 
先週福岡に行って、古典園芸業者組合の交換会に参加させてもらいました。火曜日だというのに、まずまずの参加者で、東京からわざわざ来た甲斐がありました。
 別に交換品を持っていったわけではなく、福岡の現状視察といったところでした。ところがなかなかのいい雰囲気に、「女雛」の花付きを買わせていただき、最後までお付き合いしてしまいました。

 感心したのは、参加者がそれぞれにいい木を持ってきていたこと。とかく残品整理になりがちで、安かろう悪かろうの会が多いと聞いていましたが、福岡は違っていました。
 12時半から始まって約3時間で、2000万円前後の売上があったと後で聞きましたが、うなずけるだけの品物と熱気がありました。

 病気(ウイルス)に対する取り組みも厳しいようで、そういう株を持ち込む人は、会から締め出されていく、と参加者の一人が言っていました。
 たまたま疑わしい物が出たときは、はっきりその旨周知させて、相場の半値以下で取り扱われていました。もっともそんんなケースは一度きりでした。
 参加者の中には、いまだにウイルスフリー株でなければだめだ、と思っている人がいてびっくりしましたが、その位の方がいいのかも知れません。福岡が近ければ、毎回参加したいと思ったことでした。


2001/9/23
  杭州寒蘭の紅花素舌の話は、これまで何度か取り上げたので、覚えていらっしゃる方も多いと思います。5、6年前に写真付きで中国から入れたのですが、これがいまだに花が見られないまま。写真で見る限り、間違いない杭州寒蘭の紅花素舌ですが、木姿はただの中国寒蘭くさいのです。
 他の方もほぼ同じ時期に、別の所から入手して咲かしたら、紅花素舌は紅花素舌だったが、杭州寒蘭ではなかったとがっかりしていました。木姿をみると、私の木もそれによく似ています。

 ところが3年前、沼津で正真正銘の杭州紅花素舌が咲きました。私の店の常連客で、杭州寒蘭マニアのMさんが実際に見てきたのです。根も太かったそうです。Mさんは仕事の関係で、沼津方面には知り合いが多く、その一人で、教会の牧師さんが作っていました。
 Mさんの話では、ことし花が咲いたら東京まで借りてこられるかもしれない、というので楽しみにしていました。それがどうでしょう。つい最近盗まれてしまったというのです。

 先週の日曜日のこと、恋人にご対面と教会まで遊びに行ったら、まだ事件の直後だったようです。教会だから人の出入りは多いが、作場は限られた人しか知らないそうです。私もそんな状況の中で盗まれたことがありますが、実にやりきれないものです。
 Mさん自身も昨年、自宅の蘭を何者かに盗まれ、今度は教会の牧師さんの災難。ああ、人間て何処まで救いがたいのか。たかが紅花素舌で罪を犯すとは、されど紅花素舌か。


2001/9/16
 HPを始めてそろそろ2年になります。その道の先輩から、HPを有効な広告として期待すると、がっかりするかもしれない。頭の老化を防ぐ遊びだと思って始めるんだな、といわれていました。幸い私の入っているプロバイダーは、アクセス数が出ないので、実に気楽に遊べます。

 こんな風に書くと、もうHPのベテランのようにみえるかもしれませんが、殆どはアルバイトの白石さん頼みで、私は元になる原稿を、一本指で頼りなく打つだけです。レイアウトは彼女任せです。
 そして2年経った今の感想は、正直な話、パソコンを始めてよかったなあ、です。えっ、そんなに儲かるの、なんて早合点しないでください。儲かりはしないが、世田谷村の小さな店が、ワールドワイドとまではいかなくても、ジャパンワイドになっていく実感がするのです。
 これは素晴らしいことです。店に来ていただける僅かな人だけでなく、日本中の蘭愛好家に、PCを通じて、マンツーマンで接触できるのですから。

 商売は信用が第一。むかしある人からこんなことをいわれました。「お客はお宅の蘭を買っているのじゃなく、あんたを買っているんだよ」その信用を得るための手段として、PCは格好の武器です。だから毎日アクセスしたくなるようなHPを心がけています。
 世の中どっちを向いても、浮かない話ばかり。不景気の雨は限りなく続きそうですが、私は雨の向こうに青空が見える気がします。甘いんだなあ。すみません。


2001/9/9
 9月は植え替えの時期です。このところめっきり涼しくなって、寒蘭の花芽が次々にあがってきて、有頂天になっていますが、浮かれていて植え替えを不精すると後で痛い目に遭います。
 物の本には、春でも秋でもお彼岸過ぎが植え替えの適期と書いてあります。その通りで間違いないのですが、最近の私は、秋の植え替えは、少し早め、9月の声を聞いたら始めることにしています。理由は、秋の生長期を最大限に長く利用したいからです。
 東洋蘭メールニュース(50)の中で、高知のひろたさんも同じ事を書いていました。まったく同感だったので、要旨を勝手に転載させてもらいました。

 @植え替え予定の鉢は涼しくして、2週間ほど水を切る。こうすると根が水を欲しがって活着がよくなる。A植える前に殺菌剤で消毒する。根が乾いていると消毒の効果も大きい。B植え替えた後10日ほどは土の表面が少し乾いたら早めに水をやる。

 花芽のきている寒蘭は、もちろんいまはやりません。春の彼岸過ぎが無難ですが、9月に鉢の中で、古木はずしをやることはあります。これは増殖が目的です。
 鉢にぶつかってしまったえびねの植え替えは、迷わず早めにやりましょう。早ければ早いほど活着がいいし、花もしっかり咲いてくれます。古木ぶかしをやれば、翌々年最上木で咲かせるのも夢ではありません。植物にとっても、不精は最大の敵であることをお忘れなく。


2001/9/2
 5日から欅窯の蘭鉢展です。今年で第16回になります。途中三、四回やむを得ぬ事情で中断しましたが、よく続いたものだと思います。
 欅窯の三橋俊治さんとのつながりは、コオズエビネに詳しい東京えびね愛好会の中島良一さん(故人)の仲立ちによります。「蘭鉢を専門に作る、まだ無名の陶芸家なんだけど、作品を置いてやってくれるか」 うちも名も無い蘭専門店、似たもの同士ということでお付き合いが始まったのでした。

 マンネリという言葉があります。何でも二、三年続けると、この病気にかかるのですが、三橋さんにはそれがありません。毎回新鮮な驚きがあるのです。
 だからでしょうか、欅窯フアンが当店にはけっこう出来ています。それぞれ好みのクセがありますから、持ち込まれた作品をみると「これはHさんが買うなとか、これはTさん向きだな」と、ぴんとくるのです。其の通りに売れると、これまた実に楽しいものです。

 2年前からは弟子でプロになったブナ窯が加わり、ことしからは八起窯も展示会に参加します。三橋さんにどこまで追いつき、追い越せるか、これも大きな楽しみです。
 杭州寒蘭を意識した蘭鉢がことしの主なテーマです。それにつけても20年前、小田原に住んでいた中島さんが、コオズの名品「白糸の滝」や「暖流」を三橋さんのえびね鉢に植えていた姿が、今でも昨日のことのように思い出されます。


2001/8/26
 昨年11月の「今週に話題」をご覧になっている方は、なんでまた、と思われることでしょう。自分でも心の中の変化に驚いています。というのも、ことしも中国から杭州寒蘭を入れたいと考えて、早くも手を打ち出したからです。

 理由はこうです。昨年入れた株の中で、ことし新芽の先が白く、よく抜けてあがるものが、結構でたからです。つまり覆輪の深い花が咲く可能性が大きいと思えることです。それといまひとつは、昨年ほんの僅かに咲いた花の中に、舌の白さが初期の花のように雪白だったものがあったからです。
 杭州寒蘭のよさは、限りなく透明に近い緑と、抜けるように白い舌とのコントラストにあります。覆輪が入れば、花はさらにきりりと引き締まります。
 そんな花があるかもしれないなら、一度だけの輸入で辞めてしまう手はありません。昨年あれだけ煮え湯を飲まされたのに、なんだか目の前に大きな魚がいるのを、逃がしてしまうような気分なのです。時間が経てば経つほど思いは強くなるばかりです。

 怪我を恐れてはなにもできません。思い切って、ダメモトで挑戦することにしました。この時期に頼めば、花芽の痛みも一番少ないはずです。こりもせず、また発注してきた日本の杭州寒蘭バカに、あちらはこんどはどう応えてくるでしょうか。


2001/8/19
 最近あなたの所では、せっかく上がってきた花芽が茶色くなってしけてしまったり、新芽が枯れてくるといったことはありませんか。わたしのところでは、ウチョウランの頃から、そんなことがぽつぽつ見られるようになった気がします。

 昨年まではアカダニによる被害と、温暖化による異常気象の所為と思ってきたのですが、どうもそれだけではないようです。
 これは三橋俊治さん(欅窯)の話ですが、作場のサギソウの花が、ここにきて全滅してしまったそうです。原因は農業害虫のアザミウマ。聞いたことも無い名前で、ハモグリバエの一種かと思ったら、アブラムシと同じ、吸汁性の害虫とか。でも、その被害はアブラムシの数倍も強烈のようなのです。
 なかでもミナミキイロアザミウマは、外国産の害虫で、野菜や植物と一緒に国内に入り込み、ここ数年、気温の上昇とともに、猛烈な勢いで広まっているそうです。

 そういえば以前、御蔵島のニオイエビネにつくハモグリバエで参ったことがあります。東京で作っていると、冬の寒さで死滅したのですが、ハウスでは生き残って、いまでも悪さをするといいます。ハウス栽培がさかんな昨今、気温の上昇と共に、アザミウマには絶好の環境となったのでしょう。
 でもご心配なく。モスピラン(液剤または粒剤)で防除できるそうです。まだ薬に対する抵抗性がないのか、よく効くと三橋さんはいっていました。ともあれご用心ご用心。

2001/8/12
 
まだひと月も先の話ですが、9月の5日から蘭鉢展が始まります。日本の寒蘭をはじめ、中国・杭州寒蘭も、次々に花芽を上げて来る頃ですから、タイミングとしては丁度いい時期です。
 期待している株にいい花芽がきたり、初花がくれば、嫌でもよい鉢の一つぐらい奮発してやりたくなります。花が咲いたとき、いま入れているプラスチックの鉢では何とも味気ない、なにか蘭への冒涜のような気がして落ち着きません。
 そんなとき、私はよくプラスチックの鉢ごと、すっぽり、気に入った化粧鉢にいれてやります。初めからいい鉢に入れて花を上げたのとは違って、不自然さは少々のこりますが、プラスチックのままで飾るよりは、遥かにましだと思っています。

 盆栽の世界では、鉢を抜きにした鑑賞などありえません。昔から盆栽の価値は、中身半分、鉢半分、といわれています。それが当たり前になっている盆裁界はやはりさすがだと思います。
 杭州寒蘭マニアのルーペのSさんは、鉢にお金をかけることを厭いません。自分が見込んだ未確認株を、花が咲かないうちから、いい鉢に入れてやっているのです。こうなると蘭のほうも応えざるを得ないのでしょうか。Sさんはかなりの確率で、いい花を当てています。

 問題は、化粧の蘭鉢よりプラスチックの鉢のほうが、今のところ作りやすいことです。化粧鉢に欠陥があるとは思えませんし、そのうちうまく作れるコツは掴めると思うのですが、いずれにせよ、盆裁界に早く追いつき追い越したいものです。


2001/8/5
 
この暑さの中で、お宅の蘭の具合はどうですか。温暖化傾向も、ここ2、3年はとくに激しいようで、新聞の報道によると、この7月の東京の平均気温は28・5度、平年を3・1度も上まわっているのだそうです。35度を越した日が8日もありました。
 人間様だって熱中症にかかって、ばたばた倒れているのですから、蘭だって平気なわけがありませんよね。我が家でも、イシズチの「白鳥の舞」の小苗が、6月の後半からおかしくなり、葉先から枯れだしてつい先日、昇天してしまいました。コオズの柄物「浄蓮の滝」の小苗も同じ運命でした。
 他の蘭はいまのところ、けなげに頑張っているようにみえますが、まだ暑さは当分続きます。油断はしていられません。

 といって、蘭のために何ができるでしょうか。クーラーの効いた涼しい部屋に全員いれてやるわけにもいきません。やってやれることといったら、できるだけ風を通すこと、日が沈んだらほてったからだをシリンジで冷やしてやること、水遣りはさらにたっぷりかけてやることぐらいです。
 こう暑いとまた悩まされるのが、寒蘭の開花時期です。一般に暑ければ暑いほど、開花の時期は遅れるといわれています。昨年は幸いうまくいきましたが、ことしはどうでしょう。柳の下にドジョウは二匹いるでしょうか。

 それより何より、8月下旬から9月上旬にかけて、順調に花芽を上げてくれるかどうか。異変だらけの昨今、悩みは尽きることがありません。


2001/7/29
 
蘭寶ャ史の日本語訳の改訂版がようやく出来上がりました。初版は数も少なかったので、あっという間に売り切れてしまい、増刷を望む声がしきりでした。
 蘭寶ャ史については、懐かしい思い出があります。20年以上もまえのことですが、店を始めて間もなく、古書マニアのKさんが、下巻(培養編など)の欠けた上、中巻をくれたのでした。勉強不足のわたしには猫に小判で、中国語は読めませんし、たいしてありがたいとも思っていませんでした。

 ところが、知る人ぞ知るで、すずき園芸には蘭寶ャ史があると評判になり、大学の先生が、コピーさせてくれとやってきたりして、店の信用を大いに高めてくれたのでした。
 日本の養蘭の古典書として大変有名な「蘭華譜」(小原栄次郎編)も、蘭寶ャ史によるところが大きいとのことです。それにしても漢字はさっぱり読めないし、写真も最悪とあって、日本語訳がでるまでは、持っていることだけに意義があったような次第でした。

 いま、翻訳された初版本は、手垢でぼろぼろになっています。読むたびに新発見があります。おかげで手に入れた「余姚第一梅」が、贋物であることもはっきりしました。
 増刷されたといっても数は知れたもののようです。私の店は50冊です。こんどは1部2300円だそうです。地方にいて送って欲しい方は、メールで在庫を確かめた上で、送料込みの2700円を同封してご注文ください。

2001/7/22
 
年のせいか今年は暑さがことのほか堪えます。蘭の方もなにか異常を感じているようで、寒蘭の花芽が上がってきてしまって困ったという報告をたびたび聞きます。私のところでも「吉祥山」がすでに20センチを越える花茎を2本もあげています。
 気がついたのが遅かったこともあり、いまさら花芽を欠くのもはばかられたので、思い切って咲かせてみようと思っていますが、どういうことになりますか。
 新子がお休みして、花芽がつきやすい状況だったのですが、杭州寒蘭の場合、何はともあれ、新芽がきてくれるとほっとします。ことしは「孤峰」「飛竜峰」「下天竺山」その他大物にぞくぞくきているし、期待の「奔月」は2芽もあがってニコニコしています。成績は悪くないようです。

 ある出版社のSさんが、昨年手に入れた素心が、気になって問い合わせてみたところ、後(古木)は落ちたが、3枚葉と思える力強い新芽が、15センチほど上がっているということでした。
 これまで素心はいろいろ見てきましたが、Sさんのそれは、まさに「ジス イズ ソシン」でした。杭州寒蘭の素心は、こうでなければ・・という理想の花でした。淡い緑の、それはそれで素晴らしい素心はありますが、これほど緑が深く、澄んだ素心をこれまで見たことはありません。
 今年また花を上げたら、こんどはぜひ、店に展示していただきたいものと願っています。この花「翠皇」(すいこう)と命名したそうです。


2001/7/1
 早いもので今年ももう半年が過ぎてしまいました。光陰矢のごとしといいますが、古稀を過ぎたいまは、それでもいい足りない程の速さで、時間が経っていきます。一日が24時間でなく、48時間だったらよいのになあ、と思うことがよくあります。

 ところで、この半年で目立ったのは、中国春蘭の復活とウチョウランの女性の間での人気上昇です。どちらも去年まではひどいものでした。中国春蘭は根巻きで隅に置かれ、捨て値で売られ、ウチョウランは仁王崩れの氾濫で、嘗てのマニアはあらかた手を引いてしまいました。
 中国春蘭といえば、古いものは200年前後の歴史をもち、度重なる戦争や破壊の中で、愛好家に守られてきたものです。今年なぜ急に人気があがったのか、定かではありませんが、大変結構なことだと喜んでいます。
 堂々とした「宋梅」の株立ち、紅一点で悠然と咲く「西神梅」、清楚で力強い「老文団素」どれをとっても中国春蘭は、すばらしいものばかりです。作り方を競い合う人気投票が、毎年にぎやかにやれたら、私としては本望です。蘭はそうやって楽しむものだと思うからです。

 男の道楽であったウチョウランも、バイオによる価格破壊が、新たに女性ファンを作り出しました。1本の値段は安くても、株立ちにすることで付加価値がつき、鉢にもその人のセンスが生かされます。二、三年後には人気c純棟ワを、女性が取ることも、夢ではない気がします。

 都合により8日と15日の「今週の話題」は休ませていただきます。


2001/6/24
 時間が経った今だから話す気になったのですが、この4月の初めに大変嫌な事件がありました。えびねの時にはいつも世話になる生産者のEさんが泥棒にはいられたのです。長年かけて集め、育ててきたニオイ、コオズの名品をごっそり盗まれてしまいました。一説には2000万円の被害だそうです。
 私にも過去なんどか経験がありますが、そんなときは腹立たしさのあまり犯人をあれこれ推測してしまいます。Eさんもそうでした。困ったことにその相手がうちのお客様で、えびねではやはりいろいろ世話になっている人なのです。

 10年程前、東大和のM園芸店さんが盗難にあったときも、犯人は常連客の一人だと決め付けていました。その人も私の店にはよくみえていて、えびねは大好きですが、盗みを働くようなひとでは決してありませんでした。私は今でもお客様以上のお付き合いをさせてもらっています。
 犯人が捕まってくれれば、何もかもはっきりするのですが、過去、大きな盗難事件で犯人があがったケースはあまりないようです。殺人事件などと違って、花盗人では、警察の方も今ひとつ熱がはいらないのかもしれません。

 ともあれ、このままではEさんも、疑われた人も、間にいる私も浮かばれません。このところの梅雨空のように鬱陶しい限りです。なにもかもすっきりするための解決策はどうしたらいいのか。結論はやはり、警察にがんばってもらうほかないようです。


2001/6/17
 ウチョウランの世界に、ことしはちょっと“異変”が起こっているようです。女性のファンが急に増えてきました。嘗ては男性の、高価な趣味の蘭でしだが、人工交配による価格の暴落で、すっかり様子が変わってしまいました。
 ガーデニングのブームで、女の人が土になじんできたこともあります。隣とはひと味違ったものにしたいと思うとき、ウチョウランは恰好のものだったようです。

 第一に小型で可愛いこと、第二は蘭であること、つまり高価なイメージがあること、第三はバライアティに富むこと。自分の好みに合わせて集める楽しさ、さらに鉢の工夫と楽しみはエスカレートしていくようです。
 ウチョウランのよさは株立ちにあります。1本では様にならなくても、10本、20本となるとそれは見事です。うまく管理すれば4、5年で二桁の株立ちになるのです。
 私の夢は、女性も混じえた大勢の人が、ウチョウランの株立ちに挑戦して、毎年人気コンクールを開くことです。だれがこの小型野生蘭の可憐さを最大限に引き出すか、センスのよさも問われるのですから、考えただけでもわくわくします。

 今年は残念ながら、準備不足でコンクールを開けませんでしたが、来年は豪華な賞品を用意して、ぜひ実現したいと思っています。


2001/6/10
 このところHB101がよく話題になります。園芸をやる人なら殆ど知らない人はいないほど、派手に宣伝されています。農業関係から園芸の新聞、雑誌はもとより、最近では一般紙にも大きく広告がでていました。
 バイオ技術で明日を創る、というのがうたい文句の、言ってみればオールマイティーの活力剤です。松や杉とオオバコのエキスを特殊ブレンドしたものだそうです。
 「HB広報」という宣伝誌を毎月だしており、もちろんHPでもばっちり宣伝しています。見ていると、HB101さえあれば、他には何もいらないような気持になります。医者いらずといわれたアロエのように万能なのです。

 だが、それが天邪鬼な私にはひっかかります。HB101にけちをつける気はありません。それなりの効果はあるのでしょうが、大事なのは植物の置かれている環境ではないでしょうか。
 いくらいい薬が出来ても不摂生しては元も子もありません。自然の中の植物は、水と空気と光のバランスの中で育つのです。HB101で育つわけではありません。そこの所をはきちがえてしまうと大変なことになります。

 肥料をやりすぎて枯らすことはあっても、やらなくて枯らすことはない、といった先人の知恵のある言葉がふと浮かんできたことでした。


2001/6/3
 このような欄でお天気の話をすると、状況が変わってピンボケになるケースが多く、できるだけ触れないことにしているのですが、それにしてもことしは、一週間も前から梅雨に入ったような天候が続いています。
 この時期のえびねにとって、大敵は軟腐病と毛虫です。先日もYさんが「虞美人」の新芽が黄色くなってきたと、慌てて電話してきました。処置が早かったので、やられたのは新芽だけですみましたが、うっかりすれば元も子もなくすところでした。

 最大の防禦法は過湿にしないことと毎朝覗くことです。いまの新芽は伸び盛りで実に綺麗です。見るだけで気持が洗われます。そのうえ軟腐もみつけやすいですから、かならず覗いて、三文の徳といきましょう。
 蝶が舞いだすのもこの頃です。蝶に気がついて10日も過ぎると、えびねの葉が筋だけ残してあらかた食べられてしまう被害が発生します。とくに茶色いむくむくした毛虫(なに蝶か知りませんが)は憎たらしいほどです。
 私は蝶が舞ったのをみたら、一週間後に新葉を主体に殺虫剤を丁寧にかけてやります。梅雨明けまで二、三度やれば、大きな被害は起こりません。花が咲いたとき虫食いだらけの葉っぱでは、お客様に合わせる顔がありませんですから、ハイ。


2001/5/27
 月刊誌「自然と野生蘭」に、ウイルスのことでびっくりする記事が出たのは丁度去年の今ごろでした。ウイルスのワクチン処理をしたトマトの樹液をえびねに接種すると、ウイルスにかかりにくいだけでなく、病気の株も二三年で治るというものでした。
 半信半疑ながら、トマトの苗を買いに走ったのはいうまでもありません。捨てきれない病気の株がごろごろしていたのですから。記事の信憑性は翌月には否定されたのですが、一時トマトの売上に貢献したことだけは確かでしょう。

 学問的なことはわかりませんが、えびね作りの百姓として、病気を出したら治しようがないのが現状なら、病気を出さない作りをすることだ、と私は考えています。
 その実験を始めてもう10年ほどになりますが、以来ウイルスの発病率は多い時で10%、平均すると5、6%に過ぎません。勿論これで満足しているわけではありませんが、えびね作りが毎日楽しいことだけは確かです。

 私が心がけているのは、えびねを暑がらせないこと、冬はゆっくり冬眠させてやることです。感染は気にしません。感染するとすぐ発病すると思っている人がまだ沢山いますが、そんなことはありません。ウイルスフリー株なんて現実にはありえないでしょう。
 私のこんな考え間違っているでしょうか。でも、病気の株が治せるともっといいですね。


2001/5/20
 園芸店をやっていて、いつも困るのは端境期のレイアウトです。特にえびねが終わってから次のウチョウランまでの約一ヶ月が困ります。
 ゴールデンウイークが終わるのと殆ど時を同じくして、それまでお祭り騒ぎのにぎわいをみせていたお客様は、潮が引いたように来なくなります。それは現金なもので、こちらも疲れがピークに達しているから有難いのですが、拍子抜けもします。

 ウチョウランが、えびねにすぐ取って代われるなら、問題はないのですが、まだ蕾が色づかない状態だから、とても店内に持ち込めません。
 なんとなく疲れたえびねを一日伸ばしにしてもたせます。穴があいたところには、日陰でもよいものを並べるのですが、イワタバコやシダ類などでは、蘭科植物でないだけに、どうも役不足な感じでしっくりしません。
 ここ数年は空いた所に、三橋さんの蘭鉢と亡くなった黄業乾さんの中国古鉢を並べて、「鉢は水をやらなくていいからね」などと嘯いて、ずっこけています。

 百花繚乱のこの時期、いくら古典園芸の店だからといっても、ちょぴりさびし過ぎます。根本的な端境期対策が必要です。一茎九華が6月上旬まで咲いてくれると問題はないのですが、叶わぬ望です。どなたかいい知恵をお貸しください。


2001/5/13
 えびねのお陰で大変迷惑しているのが一茎九華です。にぎやかなえびねの花に目を奪われて、だれも九華に注目してくれる人はいません。しかも大鉢作りになるので、ここ数年は人気が落ちるばかりでした。
 そんな九華を捨てきれないで、何品種か作っていたのは、その高貴な香りと、花が出す蜜のせいです。
 香りは資生堂が分析して、10年ほど前に人工合成に成功、香水として売り出されています。蜜は透明で淡白な甘味をもち、私は毎朝、楊枝ですくって舐めるのを日課にしています。不老長寿の妙薬だそうで、ひと舐めで10年寿命が延びるとか。

 その九華がどういうわけか、このところ急に人気がでてきました。昨年の2倍、いや3倍以上になっているのもあるようです。とくに「関頂」が引っ張りだこです。
 私のところにも花未確認の「関頂」があったのですが、すぐ予約でいっぱいになりました。本物なら中国で1芽が5〜7万円もするというので期待したのですが、咲いたら全くの別物でした。
 それでも蜜はたっぷり出ています。そっと舐めてみたら、苦いどころか爽やかな味でした。金儲けがだめなら、せめて長生きさせてもらおうと、毎日舐めたことでした。


2001/5/6
 大阪では「通り抜けが終われば初夏」といいます。造幣局のお花見が過ぎると、もう暑い夏が目の前だというわけです。私の店では、えびね展が終わると、初夏になります。
 そして初夏の風物詩といえば、やはりウチョウランということでしょう。今年で21回目になる展示会は、一ヶ月ほど先の6月13日からですが、早いものはもう蕾が見えてきています。
 昨年の夏が暑すぎたせいなのか、冬の管理になにか手落ちがあったのか、芽をふかない鉢が例年の倍近く出ました。

 見事なトラ斑の芸をみせた「幻」もその一つでした。昨年請われて一つがお嫁入りしていたのでよかったものの、そちらのほうもどうなったか気がかりです。「仁王」もでてきません。「たまむし」も消えました。
 巷に仁王崩れの花が氾濫してくると、原種が理屈抜きでますますいとおしくなります。何とかふやしたいと焦るのですが、結果は減るばかり。
 ウチョウランの寿命は20年という説があります。なんとなくそんな気もしてくるこの頃ですが、上手に作っている人もいるようです。こうやれば絶対というハウツー、教えてくれる人はいませんか。


2001/4/29
 このところちょっと鼻を高くしています。来る人が一様に私の作りを口を極めて誉めてくれるからです。
 写真のキンランです。昨年の今ごろ、お客様が多摩丘陵から山採りしてきたものをいただき、一年作りました。
 キンランはなかなか上手に作れない人が多く、作れてもまず増やすことが出来ないといわれています。

 それがどうでしょう。確か7本いただいたのが9本になっています。1cm角ぐらいに切った段ボールをまぜて栽培すると、よく出来るときいたので、試しにやってみたのです。
 駄温鉢に植え、浅鉢皿のどぶ漬けにして、水も適当、肥料もまったくといっていいほどやりませんでした。置き場所も適当でした。

 というわけですから、言ってみれば、偶然よく出来ちゃっただけで、私の腕がよかったわけではありません。
 それにしても段ボールはミラクルのようです。お客様の要望に応えて、今年は2、3鉢ふやして作ってみます。柳の下にドジョウは二匹いるでしょうか。

2001/4/22
 展示会が始まるときに、もう花が終わってきているなんてことは、商売を始めて27年になるが初めてのことです。昨年の夏は暑すぎ、暖冬のはずの冬は寒すぎ、4月は寒の戻りがあるはずなのに、初夏の陽気に一気に進んだ結果がこのありさまです。

 えびねも戸惑ったに違いありません。昨年の秋、株分けをできるだけ控えたのは正解でした。例年になく病気(バイラス)の株がでているからです。もし株分けしていたら、病気の鉢数を増やして、せっせと水をやる破目になっていたことでしょう。
 どぶ漬け法をはじめてから、病気の発生率はどんどん減り、最近は5%前後になっていました。こうなるとえびねも鼻歌交じりで作れます。捨てる株より増える株のほうが多くなるのですから。
 ところが、今年は様子が少し違います。おかしい株が10%近くでているのです。SさんもUさんも、例年になく多いとこぼしていました。二人とも管理に手抜きはなかったといっているので、原因は外部環境の変化といっていいでしょう。

 えびねにとっては、生きるのに厳しい地球環境が続きます。でも何とか知恵をしぼって、自然が生んだ美しいこの野生蘭を残していきたいものですね。

2001/4/15
 東洋蘭はもちろん、古典園芸から山野草まで、最近は柄物ブームです。どちらかといえば花物党のわたくしですが、柄なんか関係ねえよと、知らん顔をしてもいられなくなりました。
 西のえびねで「万葉集」という柄物があります。最高との評価が高いのですが、それに勝るとも劣らない東のえびねといえば、コオズの「浄蓮の滝」でしょう。

 まだ知らない人が多いと思います。昨年、日本えびね業者組合の珍品貴品集に載せたのですが、写真を間違えられてしまいました。照りのある紺地の葉に鮮やかな白の中押し縞が入ります。後冴えで、花後、葉が伸びきった頃から見事になってきます。
 昔、「白糸の滝」というそっくりなコオズがありました。こちらは天冴えだったと思いますが、盗難に遭って以来行方知れずとなっています。

 はじめ「浄蓮の滝」をみたときは、てっきり「白糸の滝」がでてきたのだと思いました。でも、黄弁白舌の浄蓮に対し、白糸は花を見ていないし、天冴えも定かではないので、何ともいえません。
 いずれにせよ、東の横綱は間違いないと思います。夏の暑さで今年は葉先を痛めていますが、持ち主のHさんが展示してくれました。花ももうほころび始めています。

2001/4/8
 桜の見頃も終わり、私の店では、代わってえびねが咲きはじめました。フレームに入れてあったのは、早いものは7分咲き、平均すると3分咲きになっています。外のものは三分の一ほどが蕾をのぞかせてきました。
 春はいっせいに命が息吹く時です。古稀を過ぎたわたしも、なんとなくわくわく、そわそわして、ボルテージが上がってきます。

 そこに大きなニュースがありました。植物のことでなくて恐縮ですが、野茂の大リーグ2度目のノーヒット・ノーランです。久しぶりに興奮しました。イチローも新庄も佐々木もよくやっていますが、忘れられかけていた野茂に男の中の男を感じました。
 ヤクルトの古田が、国民栄誉賞を与えるべきだ、といっていたが大賛成です。野茂を夕刊の一面トップで取り上げた朝日新聞にも拍手を送ります。無愛想で口下手な男の野茂は、われわれ日本人に希望と勇気を与えてくれた、最も“雄弁”な男でした。
気分が良くなると不思議なものですね。棚に並んでいるえびねが、どれもこれも輝いてみえます。こちらもがんばらなくちゃ。


2001/4/1
 いよいよえびねの月です。今ごろになると、毎年なんとなくボルテージがあがって、夜なかなか寝付かれなかったり、朝異常に早く目が覚めたりしてしまいます。
 それに拍車をかけるように、Fさんが「青嵐」の花付株をもってきてくれました。最上木とはいえませんが、立派に花をあげた正真正銘のニオイエビネです。

 ニオイの名品といわれるもののほとんどは、花形から見てコオズといっていいものが多いのですが、「青嵐」は10人が10人ニオイというでしょう。
 それでいてすばらしいのですね。どこがいいのか。色でしょうか、花形でしょうか、それともバランスでしょうか。どれをとっても「青嵐」はトップではありません。
でも、総合すると「やっぱりこの花が一番だなあ」という木なのです。中裂片が後に下がる欠点があるのですが、惚れた弱みか、あばたも笑窪で気になりません。

 一度作落ちさせて大幅に増殖が遅れ、咲く咲かないは別として、現在この株を所有している人は、私の知る限り4人です。
 だからまだ見たことがない人がほとんどでしょう。展示する木が最上木でないのが残念ですが、是非一度みてやってください。1日現在写真の通りです。


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