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           11 (2004/10/3〜
2004/12/26
 陳舜臣氏の「蘭におもう」という随筆が徳間文庫から出ているのを、最近読む機会がありました。おじい様が蘭きちがい(ご本人のことば)だったとかで、氏の幼い頃は家中蘭の鉢だらけだったという、今でも思い当たる方があちこちにいそうな話がのっていました。興味深いテーマが色々ある中で、印象に残ったことがあります。

 日本で「松竹梅」といえばお正月に欠かせないもので、おめでたいものの代表ですが、中国では一名を「歳寒三友」ともいい、画題なのだそうです。松竹梅を一つの画面に描いたのが「三友図」で、これはいかなる権力にも、暴力にも、誘惑にも屈しない芯の強さを表現したものだとありました。
 松は寒いときも緑の葉を失わず、竹は寒風にもまっすぐに立って折れず、梅は雪にもめげず花を咲かせます。酷寒に耐えて自分の節操を曲げない凛とした姿を、いかなることがあっても信念を曲げない厳しさと見ているのでしょう。松竹梅に対する日本人のイメージには、この厳しさが含まれていないので、日中両国の人が受ける印象は、弛緩と緊張という正反対といえるほどの差があると書いてありました。

 私はこれまで実にのほほんと生きてきて、友人にもおめでたい人間と言われてきましたが、すずき園芸の大黒柱を突然失った今、この芯の強さを少しでも身に着けたいものと思います。ことしは店の松飾りはしませんが、お正月を目前にしてふとこの随筆を思い出したことでした。

 この欄は、元新聞記者だった鈴木さんの軽妙な筆で成り立っていましたので、とても私の担当できるものではありません。そこで、どなたか適任者にお願いするか、何かお知らせがあった時にだけ、不定期に更新することにしたいと思います。「朝・昼・晩」はできるだけ続けていきます。
 皆様どうぞ良い年をお迎えください。


2004/12/19
 今年もいよいよ押し詰まりました。毎日更新を目指してきたホームページも、11月13日に起こった園主の急死という驚天動地の出来事で、しばらく手つかずでしたが、きのう18日納骨を済ませ、一応の落ち着きを取り戻しました。又出来る限り更新しながら、皆様との交流を深めていきたいと思います。

 一時は杭州寒蘭展も中止かと思いましたが、多くの方のご協力をいただいて、追悼展を開くことができました。例年と変わらぬ賑わいで、咲いてきた花を見ていただき、たくさんの展示もしていただきました。遠方からもお見えになったり、励ましのメールをくださったり、実際にお手伝いをしてくださったり、本当に多くの方々に支えていただいていることを実感したこの一ヶ月でした。

 まさに生涯現役を実行した、かっこ良過ぎる最期で、残された者は戸惑うばかりですが、今後ともなにとぞよろしくお願いいたします。

2004/11/7
 今年は変な年です。これでもかこれでもかと台風が本土を直撃し、その痛手が収まらないうちに、こんどは新潟中越地震。新幹線も初めて脱線して、自然の災害の凄まじさに、いう言葉がありません。

 変な年といえば、寒蘭も変です。ことしは花茎が伸びて開花するまでの間、首を振る動き(私はこれを“首振りダンス”といっているのですが)が随所にみられます。
 これまでも一つ二つの寒蘭が、ご愛嬌に首振りダンスすることはありましたが、ことしは「豊雪」も「武陵」も「日向の誉」もダンス狂になり、「秋水」に至っては、最早重症といっていい状態です。
 「秋水」は3鉢花が来ていて、それぞれ置く場所が違っているのですが、一斉にダンスをつづけています。一つは完全に横に寝てしまい、支柱を立てて支えている始末です。
 何が原因でこうなるのかさっぱりわかりませんが、自然作りが身上の蘭が、支柱を立てなければいけないようでは困ります。どなたか理由がわかっていたら教えてください。

 わけがわからないといえば、葉柄の部分が次々に枯れていってポロポロとれ、ひどいのは完全に葉がなくなってしまう病気も、このところ耳にします。立ち枯れ病とでもいうのでしょうか、何をしてもとまりません。
 数年前、「白妙」など数鉢がやられました。このところは大丈夫のようですが、災害はいつやってくるかわかりません。備えあれば憂い無しというけれど、どう備えようもなく、ただ祈るしかありません。 
      ***       ***       ***
 14日の「今週の話題」は都合により休ませていただきます。

2004/10/31
 杭州寒蘭の花未確認株が入ってから、問い合わせやら注文のメールが急に多くなって、PC嫌いのわたしですが、午前中は返事のために、ほとんど釘付けになっています。

 杭州寒蘭をはじめてやってみようかという人は、まず花付き株を欲しがり、ベテランになるほど、花はどうでもよく、葉姿その他で、何か特徴のあるものを注文してきます。
 店まで来られる人も同じです。共通しているのは、一株一株それは丹念に調べることです。Hさんなどは有給をとって、午前中の時間をめいっぱいかけて選んでいました。
 ルーペのSさんが求めた株は殆どが花無しで、花付きは一株だけでした。その株を見た別のお客様は「僕なら見過ごしてしまうような、なんの変哲もない株にみえる」と首をかしげていました。
 人によって選ぶ基準はさまざまですが、花があれば、期待できるものかどうかすぐに分かるわけですが、実際には一、二作してからでないと正しい評価はできません。

 そこで提案です。平成12年から昨年まで毎年入れた株で、ことし初花が来たものがけっこうあります。これなら、花芽代として2,500円(1条分)プラスされるだけで、花も根もしっかりしたものが手に入ります。
 早く花が見たい方は、ことしの花付きより、昨年までの初花株を選び、ことしは花無しで我慢するのも一法ではないでしょうか。ただし、これはすずき園芸が信頼できれば、の話ですが・・
 蘭は人を買え、とよくいわれますが、PCは顔が見えないのがいけません。


2004/10/24
 突然、片言の日本語でメールが飛び込んできたのは、今から半年ぐらい前だったと思います。上海在住の張さんという蘭のマニアからでした。涎が出そうな奥地の蘭の写真付きでした。
 中国では奥地の蘭が大ブームで、値段もうなぎのぼりだときいていたので、集めるのにどれだけのお金をかけたのだろうかと、他人事ながら気をもんでしまいました。
 日本語に翻訳するソフトが未熟のようで、判読するのが大変でしたが、ここ二、三年前から寒蘭にも興味を持って集め始めている、是非先生(私のこと)に教えを請いたい、とありました。

 それからというもの、けっこうこまめに写真付きのメールが飛び込んできて、こちらも今度はどんなものを手に入れたかなと、メールを心待ちするようになっています。
 最近のでは、武夷山で採った杭州寒蘭で蕾の元まで、くっきりと覆輪がかかっているものや、写真の紫秀蘭の奇花(下顎片が舌化したもの)などを送ってきています。
 私もある筋を通して、向こうの蘭園とコンタクトはとっているのですが、痒いところに手が届くところまではなかなかいきません。歯がゆい思いばかりさせられています。

 かくなるうえは、張さんに日本人好みの花のタイプを知らせて、花時にせっせと集めてもらうというのはどうだろうなんて、手前勝手なことまで考えたりしています。
 いずれにせよ、重い腰をあげなきゃ、これはというものは入りそうもないようです。


2004/10/17
 先日、中学の同級生の喜寿を祝う会がありました。12人が元気に参加しました。卒業したのは終戦の年の昭和20年で、そのときは、記憶に間違いがなければ、40名いました。
 三月に母校が空襲で焼け、八月の敗戦の後は、みな散りじりになって、ようやく世の中が落ち着いてきた数年後にできた名簿では、36名になっていました。

 中学2年のときから勤労動員がはじまり、勉強よりは工場で働く日々のほうが多く、本来は5年卒業なのが4年終了卒業という変則な形で中学を巣立ったのでした。
 そんなわけで、勉強のほうはぱっとしないが、ほかのクラスの連中がうらやむほど結束は固く、クラス会も年とともに頻繁に開いて、今では毎月有志が第3金曜日に集まっています。

 その間、病気などで亡くなったのは11名。音信不通が2名。出席しなかった後の11名は、半分が元気だが都合つかずで、残りが病気加療中ということでした。
 この年で、それがいいほうなのか悪いのか、それとも平均なのかはわかりませんが、出席したものがみな「元気に喜寿が祝えるとは思っていなかった」と話していたのが印象的でした。

 なろうことなら傘寿、米寿もかく祝えたらいうことなしなのですが、これはあつかまし過ぎるというものでしょうか。敬愛する中学の恩師も、米寿を直前に他界したことでした。
 蘭は別名長生き草ともいいます。恩師を乗り越えるためにも、これからもせっせと可愛がらなくちゃあ。

2004/10/10
 寒蘭展まであと10日となりました。いまその準備で、植え替えが急ピッチですすんでいます。鉢を開けてみて考えさせられることがいろいろありました。

 まず第一に植え替えを何年もしていないものは、間違いなく、昨年以前の根があらかた傷んでいたことです。例外は1件だけで、殆ど天然の雨だけに頼って作っていた「虹雪」が、信じられないほどのいい根でした。
 上砂だけを取り替える際、残りの砂の微塵を勢いよく洗い流した鉢は、根の傷み方が、数年植え替えなくても、何もしないままのものより、はるかによかったことです。
 ただ、小苗、中苗は二、三年植え替えないで作ったものと、毎年植え替えたものとでは、後者に軍配があがりました。毎年植え替えたほうが、はるかに成長が早いように感じました。

 以前にも書きましたが、増えの悪い杭州寒蘭が、あるときから急に勢いづいて、丈夫になることがあります。「峨眉山」「西湖」がそうで、今年も一、二そんな傾向がみられるものがでてきています。
 概して根の太いものは、本来丈夫な木のようで、無理な小割りをしない限り、順調に増えていくものが多いようです。逆に細めは、性質が弱く、ある程度の株立ちになるまでは、毎年植え替えるのがコツのようです。
 風さえよく通れば、水は多くていいというのが大方の意見ですが、私のところでは、必ずしもそうとはいえない気がします。やるときはたっぷりですが、干したほうが結果良好のケースが多いです。
 根がよくても葉の持ちが悪いのはなぜなのか。蘭作りは何年やっても、卒業証書はもらえそうもありません。


2004/10/3
 早いものはもう間もなく咲き出すでしょう。20日からの寒蘭展は、どうやら順調に幕開けできそうです。夏日の新記録を作った異常な暑さで、やきもきした心配も徒労に終わったようです。
 ことしは花上がりも開店以来一番の成績です。どちらかというと花付きの悪い「日向の誉」が、3株も花をつけているのですから驚きです。これで花色もよかったら笑いが止まらないところでしょう。

 これは虐げられた日本寒蘭のささやかな抵抗のような気がします。ここ10年近いその凋落ぶりは目を覆いたくなるものがあります。かつて1000万円といわれた「豊雪」が、いまやたったの2、3万円なのですから。
 値段はともかく、花のすばらしさで「豊雪」の右に出るものはない、といっても過言ではないでしょう。「豊雪」だけではありません。同じように、冷遇されている花は数限りなくあります。

 寒蘭はなにも値段が安くなったからといって怒っているのではありません。高価なときはちやほやし、安くなったら見向きもしない人の心根が悲しいのです、さびしいのです。
 だからことし、一杯に花をつけたのは、すばらしく咲いて、その良さを見直してほしいという、寒蘭のささやかな抵抗なのだという気がしてなりません。いい花はだれがみてもすばらしいはずです。
 そんないい花が、いま信じられない値段で手に入れられるのですから、どれにするかで悩んでも、ためらうことはないのではないでしょうか。ことしはその最後のチャンスかもしれません。そんな気がします。

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