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 日本寒蘭は産地によって土佐、薩摩,日向,紀州寒蘭などといいます。だから杭州寒蘭も中国・杭州の寒蘭と考えがちですが,必ずしもそうではないようです。たまたま杭州植物園から最初に持ってきたので、ごく自然にそう呼ばれてきたのでした。実際はもっと広い範囲に分布しているといわれています。
   中国寒蘭は日本のものとまったく区別がつきませんが、杭州寒蘭の花には大きな特徴があります。 蘭科の花は花弁が三枚、ガク片も三枚で,花弁の一枚が必ず変形します。その変形した花びらを「舌(ぜつ)」といいます。杭州寒蘭はその舌がすばらしいのです。黄味がかった地色に赤茶の斑点があるのが普通の寒蘭ですが,杭州の舌は雪のように白い地色に紅味の強い斑点が入って,見れば見るほど清潔で、すがすがしい気持ちになります。白い舌にグリーンの縦線が数条くっきりはいっていたりすると、さらにトーンをたかめます。
       
 舌だけでなく、花色にも大きな特徴があります。寒蘭の青花は実際には黄味がかった緑ですが,杭州は黄色をほとんど含まない緑そのものです。淡いのは翡翠,濃いのはエメラルド色で、しかも透明感があります。この緑と舌の白さのコントラストは絶妙で、心が洗われる気分になります。杭州寒蘭にはまた、捧心(舌を除いた花弁)に白覆輪をかけるものが多く、これが深いと実に見事です。ファンの中には、覆輪が入らないのは杭州寒蘭といいたくない、とまでいう人もいるほどです。    日本の寒蘭も中国,台湾、あるいは韓国の寒蘭もサラサ花は最初から蕾に色をつけてあがってきます。ところが杭州の蕾は大半がまったくのグリーンです。青花だと思っていると,咲く寸前になって色がのってくるのです。濃いサラサ花だと、日ごとに深くなっていきますから、毎日が新鮮で見飽きることがありません。濃くなりすぎてグリーンが消えてしまうものもありますが、そうなると、他の寒蘭との区別がつかなくなって面白くありません。濃い赤花でも緑がポイントになるのです。
   
 だから、杭州寒蘭は蕾の色だけで、青花だとか紅花だとかサラサ花だとはいえません。もちろん、日本の寒蘭と同じように、最初から色がついているのもあるのですが、ほとんどは変化します。初花株を買うときは気をつけましょう。蕾で青花かサラサ花か判別できる人もいるようですが、どこまで色がのるのかは花次第のようです。青に近いサラサを青サラサ,中間止まりを中間サラサと呼んでいますが,これが一番多いようです。でも、いろいろ変化があって面白いのはこのタイプです。  杭州寒蘭は根にも特徴があります。他の寒蘭の倍は太い根をしています。保水力は抜群だから、水遣りは少なめ(間隔をあける)でよいと考えました。ところが、今ひとつ成長が思わしくありません。どうしたら上手くできるのか。愛好家たちの最近の考え方は、「乾燥にも耐えるが,本来,水が大好きなのだ」でまとまってきているようです。ただ、水を多くやるのはよいけれど、風がとおらないと、根腐れする恐れがあるのでご注意を。風蘭は風で作れといいますが、それはどの植物も同じです。
     
 杭州寒蘭の濃い花で有名なのは「孤峰」「天竺山」「峨眉山」「世田谷錦」「下天竺山」「紫芳山」「飛竜峰」「岳陽」「飛天」「老門山」などです。ほとんどがいぶし銀のように黒ずんで渋い鳶赤ですが、「紫芳山」「赤壁山」の色は鮮血に近い紅でみごとです。えびねなどと違って寒蘭の花色は貧弱なのですが、それゆえに、わずかの違いが大騒ぎになります。杭州にも少しですが黄花や桃花があります。「黄鶴楼」「桃渓」がそうですが、どちらも株分けするところまでいきません。  杭州の中間サラサではよいものが沢山あります。代表的なのは「満月」「万寿山」「逸品」「燕雀」、「孔明山」「白狼山」など。捧心に深い白覆輪をかける「黄玉山」は淡いサラサで,花形もよく、まるで母親の懐に抱かれているような安らぎがあります。残念なのは、ほとんどの木が増えが悪く、お客様の要望にこたえられなくて、順番待ちの状態になっていることです。こうやったら増やせるという方法があったら、ぜひ、すずき園芸までご連絡ください。感謝感激です。
   
杭州の青花は集めだすと切りがありません。花色はよくても花形がいまひとつだったり,花形がよくても花色がどうもといった次第で,これぞ決定版といえる花はまだないようです。「翡翠」「三潭印月」「昆明湖」「秀水」「東湖」「白玉壺」「翡永丸」「露華」など、まずまずの花として評価されています。なかでも「秀水」は数少ない前面無点花で,色もよく人気の花です。最近の花では「帰去来」が堂々としていて、「決定版かね、これが」といわれたほど見ごたえがありますが,色にやや難点があるようです。 杭州寒蘭への関心が高まるにつれて、素心花や素舌花、柄物なども見られるようになりました。素心では「白帝城」が有名です。数年前三越で見た濃色サラサ素舌の「孤舟」はまさに絶品でした。1998年に咲いた「奔月」は、中国で命名されたサラサ素舌ですが、これも大変な人気です。2000年には素心の決定版とも思える濃緑の「翠皇」がでています。


 杭州寒蘭は黄業乾さん(故人)が日本に紹介してから20数年、まだまだこれからの花だから楽しみです。


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