[水と風] 昔から東洋蘭は水遣りを我慢できる人が勝ちといわれています。鉢の表面の土が乾いても慌てることはありません。少なくともそれから二、三日は我慢します。根が長いこと水を蓄えておけるからです。ただし水をやるときはたっぷりかけてください。鉢底から水が流れでてからさらに十かぞえます。水遣りは、もちろん乾いた用土を濡らすことが第一なのですが、ほかに二つの目的があります。ひとつは、鉢の中の古い空気を押し出して新しい空気(酸素)と入れ替えることです。根も呼吸しているのですから。いまひとつは鉢の中にたまった老廃物を水と一緒に流します。蘭はきれい好きでもあるのです。 |
風も水と同じぐらい重要です。空気がよどんで動かないところでは植物は弱って早晩枯れてしまいます。蘭も例外ではありません。二階以上の作場なら心配ありませんが、地上で作る場合は気をつけましょう。扇風機が必要になるかもしれません。部屋に飾るときもできるだけ窓を開け、夜はせめて換気扇でも回してやりましょう。特に暑いときはこたえます。気温だけ上がって風がこなければ、たった一日で恐ろしいウイルス病にかかってしまうことがあります。 |
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[日照] 東洋蘭は半日陰の植物です。難しくいえば「照葉樹林の下草」として自生しているのです。照葉樹林とは椎とか樫などの、葉に照りがある常緑樹のことです。早朝の光はまともにあたっても、日が高くなるとたくさんの葉が光をさえぎってくれます。これが蘭の好きな木漏れ日です。 春蘭と寒蘭では春蘭の方がやや明るいところに生えています。一般の家庭では木漏れ日の下で作るなんて不可能な方が多いでしょう。でも心配いりません。明るい日陰ならOKです。下手に直射光を当てるより当てないほうが安全です。 |
日の当てすぎは葉焼けの原因となり、美しい蘭の葉を台無しにしてしまいます。明るすぎれば葉の色が黄ばんでくるし、暗すぎれば濃緑になります。本などには「午前中は日の当たる場所で遮光して作りなさい」と書いてありますが、遮光によって風通しが悪くなることがあります。直射光はあたらなくても乱反射の光だけで明るいという場所は何処かにあるはずです。はじめのうちはそんなところで作ってください。必ず自信がついてきます。 |
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[冬の管理] 春蘭は日本全国、寒蘭は紀州以西、四国、九州に自生しています。寒蘭のほうが寒がりです。といっても冬に加温する必要はまったくありません。北関東以北は別ですが、東京あたりでは楽に越冬します。ただ大事なことは冬の冷たい風に直接当てないことです。風速が1b増すごとに気温のほうも1度ずつ下がってきます。これが株をいためる大きな理由です。必ず夜は風除けをしてやりましょう。 冬の夕方の水遣りもダメです。早朝もいけません。冬の水遣りは午前中暖かくなってからです。反対に夏は夕方から夜にかけてやります。昼間やると鉢の中が蒸れる心配があります。新芽がダメになるズボヌケなど、よいことは何もありません。 |
[肥料] 蘭づくりの格言に「肥料をやりすぎて枯らすことはあってもやらなくて枯らすことはない」とあります。この言葉は絶対に忘れないことです。植物は水と空気と光だけで十分育つのです。一番大事なのは環境です。いくら釣りの名人でも魚がいないところでは釣れるわけがありません。植物をうまくそだてる人は、特殊なテクニックをもっているのではなく、蘭が喜ぶ環境作りが上手なのです。 適度な光と適度な風と適度な水遣りを続ければ、あとは時間の問題だけです。蘭は口を利けません。態度で示すほかないのです。毎日かならず様子をみてやりましょう。そうすると、だんだん蘭の言っていることがわかってきます。こんな諺があります。「蘭に聞いて蘭を養い、蘭を養って蘭に養わる」そんな風に早くなりたいものですね。 |
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[植え替えと株分け] 二・三年に一度は新しい土で植え替えてあげましょう。春でも秋でもお彼岸すぎが適期です。寒蘭の花芽がきている株は、春にしましょう。株分けはどちらでもかまいませんが、小割りはいけません。必ずバルブを三つ以上つけてください。 |
[消毒] 野生の蘭は誰も消毒してくれません。生育に適した環境だからです。作場の条件がよければ消毒はほとんど必要ないでしょう。大事なのは風通しです。鉢という特殊な環境で育てるのですから、念のために梅雨どきと秋の長雨のときと、二回ほどやれば十分でしょう。病気のほうはこれでいいのですが、害虫のほうはそうはいきません。特にカイガラムシには気をつけてください。カルホスかスプラサイドを二、三カ月に一度散布します。夏はスリップがつきやすいものです。スリップは水に弱いから、水遣りのとき、葉裏にもたっぷりかけてやりましょう。 |
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東洋蘭は決して難しいものではありません。むしろ普通の草花より丈夫です。上に書いたことを守るだけで上手に作れます。値段も手頃になって楽に入手できるようになりました。高貴な花の香り、優美な葉姿と全体の気品・・・一度手がけたら虜になることでしょう。中国では東洋蘭の香りは「一嗅ぎ十年長生きできる」といわれています。だから東洋蘭は長生き草ともいうのです。さあ一緒に蘭を育ててみましょう。 |